08 覚悟

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□◆□◆□◆□  慎治たちの送迎が、ようやく慣れてきたある日、  講義が終わって帰ろうとしていたら、 「白戸さん」  突然、声をかけられた。  振り向くと、卑下た視線を向ける女とその取り巻きが、  親密とは言い難い雰囲気で立っていた。 「今日私たち、この後飲み会があるんだけど、一緒に行かない?」  今まで関わってこなかったのに、なんでだろうと思ったが、 「今日は、バイトがあるのでごめんなさい」  そう言って早々に断った。  これ以上、話はないだろうと思っていたのに、  その女は、思ってもみなかったことを言い出した。 「えー、あんたが来ないと慎治くんも来ないじゃん」  …知らないよ。  私じゃなく慎治くんが目的なんだね。  それに『慎治くん』って…。  私が呼ぶのを聞いてたのかな。  まあ、いずれにしても私はもう関係ないよね。 「慎治くんは、私が狙ってたのに」  …それも意味不明。  そもそも慎治くんは学生じゃないし、  校内に出没したのは、夏休み明けてからだよ?    返す言葉を探していると、 「千鶴」  離れていた慎治が戻ってきた。 「慎治」 「どうした、何かあったか?」  慎治が千鶴の腰に手を回して、千鶴をその腕に包み込んだ。 「ううん、お誘いを受けたんだけど、断ってたところ」 「そうか、話は済んだだろ?帰ろう」 「うん」  慎治はその女に目もくれず千鶴の肩を抱き背を向けた。 「あの、慎治くん」  だが、その女はめげずに声をかけてくる。  媚びるような、猫なで声のような不快な声で。 「慎治くん、これから飲み会があるの。白戸さんはバイトで来れないみたいだけど、よかったら一緒に行かない?」  …一応、私の彼氏(設定)なんだけどなぁ。  千鶴は呆れてしまう。これだけ無視し、背を向けているのに、声を掛けてくるメンタル。ある意味すごいと思った。  慎治も無視を決め込む。肩を抱いていた腕を、今度は腰に回し、千鶴により密着する。  そして、とろけるような優しい笑みを千鶴へと向けた。 「…っ」  女の引き攣るような息遣いが聞こえ、それは遠ざかっていった。 「あんな頭の悪そうな女、俺が相手にするわけないだろ」 「フフッ、引き攣ってたよ、彼女」 「知らねぇ」 「ありがとう、慎治」 「当たり前」  夏休みが明けて早々、  慎治たちが護衛についてから、何やら千鶴の周りの空気が変わり、  おかしなことに巻き込まれるようになった。  それも、千鶴の与り知らぬ方向から。  それまでは気配だけで、気にしなければよかったが、  今日は千鶴に接触する事案だった。  千鶴は、一抹の不安を感じたが、  考えても仕方ないと、いつものように思考を停止させた。  自分の本分と、龍二たちを信じて、  千鶴は、決してブレることはなかった。
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