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刑事の正剛はパソコンの前で探偵の名を呼んだ。
パソコンの向こうの探偵は答える。
「こんな遅い時間にどうしたんだい。正剛くん」
「連日すまないカネダ。でも大変な事件なんだ。くれぐれもここだけの話で頼む」
「もちろんだ。依頼人情報の守秘義務は、君の方こそ把握しているだろう」
「今朝亡くなった議員立候補者だが、あれは実は殺人でね。有力な犯人には複数の人間と飲食店にいた、というアリバイがあるんだ」
「情報が少ないな。例えば証人が店の名前を誤読している、町名の読み方など場所を誤認している、時計の表示を見間違えているなどはどうだい?あとは替え玉や一人二役の可能性、証人に隠れた利害関係がある場合はどうだ?」
「ふむ、まずその線で調べてみるか」
正剛はメモを取り、次は密室での刺殺事件に、糸と五円玉を使った施錠方法と、外からゴム紐を通しナイフを発射する方法の提示してもらい、焼殺事件には、灰皿にあるアロマキャンドルを使ったものと、虫眼鏡による日光を用いた時限発火方法のヒントを貰った。
現場で解決してくれる名探偵もいるにはいるが、カネダは事件の雰囲気を伝えるだけで複数パターンを提示してくれる、トリック全般に精通している名探偵だ。
すでに個人としても、警察組織としても長い付き合いだが、今後も世話になり続けるだろうと正剛は確信していた。
「さすがだな。今日も助かったよ。カネダ。これからもよろしく頼むよ」
「ああ、またいつでも呼んでくれ」
正剛はマウスを使い、カーソルを使用中のアプリに合わせる。
そのアプリには、
『トリック解決AIアプリ 名探偵カネダハジメ』
と表示されている。
そういえば、と思い至った正剛は「もう一つだけいいか」と断って尋ねた。
「最近トリックが使われた事件が増えている。今伝えた三件も今日一日で起きた事件だ。なぜこんなに知能犯が増えたのか調査中している。トリックではないが、考えてもらえないだろうか」
カネダに頼めば解決できるとはいえ、このアプリは日々更新される膨大なデータで、当初の想定よりも負荷が大きい。
そのため維持には膨大な資金がかかっているのだ。
そして、その影響から警察は人件費削減のため人を減らし続け、増え続ける事件にさらにアプリで対応する。
この悪循環は止まる気配がない。
正剛が心の中で頭を抱えているとカネダは突然、定型文で答えた。
「知能犯増加の理由は、依頼人情報の守秘義務に関わることなので、お答えできません」
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