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「マスターのおくちに合うと良いのですが」
頼りなく楽観気味な自分よりもしっかり者な、彼女の気遣いの声が胸に響く。
恋人っていいな……
俺は心の底からそう思いながら、食事のテーブルについたまま彼女の声をぼんやりと聞いていた。
みんな、弱気な自分から去っていってしまう。きっと、俺のそばに残ってくれるのはこの彼女だけだから。
俺は彼女の居てくれる幸せを噛み締めていたかった。
ただ一つ、彼女のことで不満なことがある。
彼女はこの通り、俺を『マスター』と呼ぶ。
俺は学生時代、周りに下に見られ先輩たちの言うことをずっと聞かされてきた。
それもあり、大好きな彼女と主従関係なんて絶対に嫌だった。
そのため彼女には、
「俺は君の主人じゃない」と幾度となく言っていた。
しかしその度に彼女は困惑の表情のまま、
「そんなことはありません」の一点張りで返す。
俺はそうなると口ごもってしまい、何も言えなくなってしまう。
自分に、彼女にしっかりと伝えられる言葉と勇気があれば……
俺はいつだって意気地なしだから……
仕方なく彼女に自分とは主従関係では無いと教えることを、俺はそのうち諦めたのだった。
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