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俺はある日の夜、思い切って彼女に尋ねる。
「なあ君、この家を出たいか……?」
「はい?」
突然の質問にかなり困惑した彼女の表情が、俺の心に突き刺さる。
……なんだ。すぐには答えられないくらいなのか。
やっぱり彼女は、俺と一緒にいても……
彼女が出て行ってしまうというなら良い。俺は潔く見送らなければならない。
そのくらいの覚悟はしなければならないだろう。
例え俺が彼女を買った『主人』であっても、彼女が嫌がるものを無理やり自分のそばに置くなんて俺にはできない。
俺はずっと、周りに対して劣等感を持ったまま生きてきた。
学力も中よりも下だったし、根性もない。
いつも臆病風に吹かれ、ヘラヘラと笑いを振りまいて強いものから逃げるように。
彼女を笑わせたかったのも、こんな俺でも魅力的な彼女のそばにいる価値くらいはほしいと思っていたから。
それなのに……
こんな俺に『恋人』なんて、できるはずもなかったのに……
ならその前に、彼女をずっと覚えていたい。
「君にはリセット機能があるだろ?でもさ、俺には無いんだよ。だから代わりに君をしっかり覚えていたい。さよならの前に、抱き締めさせて……」
俺は熱に浮かされたような気分のまま、彼女を抱きしめた。
彼女は始終俺を見ないまま。
口を閉ざし、何かに耐えるように顔を逸らしたまま歪めて。
「俺を見てくれないの?……君は俺がそんなに嫌いなのか。ごめんな、でも今は君を離したくない。もう少しだけ、いいかな……?」
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