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「これ、やるよ」
羽田桃華の目の前に赤が広がる。赤いバラの花束が突き出されていた。桃華に花束を突き出したのは、付き合って十年になる青山快斗である。
「えっ、またくれるの?ありがとう」
驚きながら桃華は花束を受け取る。花束にされたバラは九本。桃華の腕の中で咲くバラを見て快斗は少し緊張したような、しかしどこか満足しているような顔をした後、いつものように言う。
「じゃあ、またな」
そう言って手を振った後、快斗はこちらを一度も振り返ることなく去っていく。家の前でバラの花束を持ったまま、桃華はポツリと呟いた。
「最近の快斗、どうしたんだろう……」
桃華には悩んでいることがある。それは、恋人の快斗がデート終わりに最近バラの花束を渡してくることだ。その日は決して何かの記念日というわけではない。もう今日で十一回目である。
恋人が花束をくれるなど、ロマンチックでいいじゃないかと思う人もいるだろう。しかし、快斗をよく知っている桃華は花束を貰うたびに不安になってしまう。
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