大道芸人への道 16

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 し、しかし、なんということだ?  このマリアの強さは、なんということだ?  実に、強い…  けた違いに、強い…  すでに、母親のバニラを圧倒している…  私は、思った…  そして、それを、思うと、将来が、不安だった…  マリアの将来が、不安だった…  だから、  「…マリア…」  と、小さく、声をかけた…  「…なに? …矢田ちゃん?…」  「…女は、カワイイが、一番さ…」  「…カワイイが、一番って?…」  「…男をイジメちゃ、ダメさ…そんなことを、すれば、他の女に盗られるさ…」  「…ウソ?…」  「…ウソじゃないさ…ホントさ…」  私が、言うと、マリアが、考え込んだ…  それを、見て、アムンゼンが、  「…さすが、矢田さん…年の功ですね…」  と、私を持ち上げた…  「…たいしたことじゃないさ…」  私は、自慢の巨乳を、少しばかり、上に持ち上げながら、言った…  「…しいて、言えば、人生経験の差さ…」  「…人生経験の差ですか?…」  「…そうさ…この矢田は、35歳…マリアは、3歳…そういうことさ…」  私が、胸を張りながら、言った…  自信たっぷりに、言った…  そして、なにげなく、窓から、外を見た…  あの金色のロールスロイスが、ちゃんと、このサロンバスを追っているのか、見た…  問題なく、走っていた…  が、  同時に、気付いた…  このアムンゼンの警備について、考えた…  たしかに、アムンゼンの護衛たちが、あの金色のロールスロイスに乗って、このサロンバスを尾行していることは、わかる…  が、  遠すぎる…  ハッキリ言えば、このサロンバスの中で、なにか、あれば、対応できるはずがない…  テロではないが、もし、今、このサロンバスに、このアムンゼンを狙う刺客でも、いれば、当然、防げない…  これは、このアムンゼンも、よくわかっているはずだ…  と、いうことは、どうだ?  と、いうことは、もしかしたら、このサロンバスの中にも、アムンゼンを守る護衛が、いるのかも、しれん…  ふと、気付いた…  そうでなければ、このアムンゼンは、身を守れない…  ホントは、30歳だが、3歳の外観を持つ、アムンゼンは、カラダは、まさに、子供…  テロにでもあったら、抵抗できないのは、誰の目にも、わかっている…  なにしろ、子供のカラダだ…  大人どころか、中学生や高校生にでも、すぐにでも、さらわれてしまうだろう…  まるで、なにか、ものを持つように、持ちあげられて、運ばれていって、しまうだろう…  と、いうことは、やはり、このサロンバスの中に、アムンゼンを守る護衛が、いるに違いないと、私は、睨んだ…  このサロンバスに乗る、園児の母親の中に、アムンゼンを守る護衛が、いるに、違いないと、気付いた…  そして、ちょうど、そんなことを、考えているときだった…  マリアが、思いがけず、  「…そういえば、アムンゼン…」  と、アムンゼンに声をかけた…  「…なに、マリア?…」  「…昨日、テレビで、サウジアラビアが、どうとか、こうとか、言ってたよ…アレは、なに?…」  「…ああ…アレは、今、ロシアとウクライナが、戦争をしているでしょ? …その影響だよ…」  「…その影響って?…」  「…戦争は、一国だけで、戦うわけじゃない…」  「…どういう意味?…」  「…人間と同じさ…誰かと誰かが、ケンカする…すると、その誰かを、応援する者が、いる…それと、同じで、変な話、応援する者同士が、今度は、ケンカになる…サウジアラビア内でも、ロシアを応援する者と、ウクライナを応援する者に分かれる…だから、互いに敵対して、相手をやっつけようとする…そういうことさ…」  「…つまり、アタシとアムンゼンが、ケンカをすれば、そのうち、アタシのママや、パパが出てきて、アムンゼンのパパやママとケンカになるかも、ってこと?…」  「…そ、そうだよ…さすがは、マリア…うまい例えだ…」  アムンゼンが、マリアを褒めた…  たしかに、さすがは、マリア…  頭の回転が、速い…  すぐに、アムンゼンが、言わんとすることを、理解した…  が、  その通りなら、このアムンゼンの身も危ないのではないか?  なぜなら、このアムンゼンは、サウジアラビアの現国王の腹違いの弟…  サウジアラビアに圧倒的な影響力を持っている…  だから、邪魔…  このアムンゼンの存在は、邪魔に違いない…  このアムンゼンが、今、ロシアか、ウクライナ、どちらかに、軸を置いている…  どちらかに、加勢しようと、しているか、わからんが、どちらにしても、自分の味方になってくれない側から、すれば、このアムンゼンは、邪魔な存在に違いない…  なにしろ、このアムンゼンの影響力は、絶大…  サウジアラビアどころか、アラブ世界で、絶大な権力を持っている…  そのアムンゼンが、敵方に加担したとすれば、実に、邪魔な存在になるに違いない…  なにしろ、このアムンゼンが、味方につくか、敵方に回るか、で、サウジアラビア一国の態度が、変わる…  いや、  下手をすれば、サウジアラビア一国どころか、アラブ世界全体の態度が、決まるかも、しれん…  このアムンゼンは、それほどの大物だった…  誰が、見ても、ただの3歳児にしか、見えんが、それほどの大物だったのだ(笑)…  そして、それを、考えると、今さらながら、このアムンゼンが、護衛を乗せた、あの金色のロールスロイスを、走らせている理由が、わかった…  要するに、キナ臭いのだ…  もしかしたら、なにか、あるかも、しれん…  そう、思った…  このアムンゼンは、常に目立たないように、していた…  自分の存在を知られないためだ…  それが、今、わざと、目立つように、あの金色のロールスロイスを走らせている…  わざと、自分の存在を目立つようにしている…  私は、思った…  と、同時に、気付いた…  今回の動物園の企画だ…  ひょっとして、この企画は、このアムンゼンが、仕掛けたのかも、しれんと、気付いたのだ…  わざと、派手な行動を取り、敵が、やって来るのを、待っているのかも、しれんかった…  このアムンゼンは、食わせ物…  もしかしたら、このぐらいは、やりかねん…  今さらながら、そのことに、気付いた…  気付いたのだ…  私は、それを思うと、ビビった…  文字通り、ビビった…  もし、  もし、だ…  この矢田の予想が、正しいのならば、このアムンゼンは、わざと、自分が、目立つことで、敵を、引き寄せようとしているのかも、しれんかった…  普段は、目立たないように、している、アムンゼンが、わざと、目立つように、振る舞っている…  わざと、護衛の乗る、ロールスロイスを、このサロンバスの近くに、走らせて、あたかも、自分が、ここにいると、相手に知らせている…  そういうことだ…  わざと、敵を引き寄せている…  そういうことだ…  私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、  「…マリア…今日は、ボクといっしょに、動物園を回ろう…」  と、言った…  「…アタシが、アムンゼンと?…」  「…そう…」  「…どうして?…」  「…どうしてと、言われても…その方が、色々、都合がいいんだ…」  アムンゼンが、告げる…  すると、マリアが、考え込んだ…  「…ウン…別に、アムンゼンが、そう言うなら、そうして、あげても、いいよ…」  「…そうか…ありがと…」  アムンゼンが、ホッとしたように、言った…  私は、その様子をジッと見ていた…  私は、私の細い目を、さらに、細めて、ジッと見ていた…  その視線に、このアムンゼンも、気付いた様子だった…  「…なんですか? …矢田さん…その目は?…」  「…ウン? …いや、オマエも、色々大変だなと、思って…」  「…ボクが、大変? …なにが、大変なんですか?…」  「…いや、生きることは、色々大変だからな…」  私は、あえて、一般論を言った…  わざと、一般論を言って、ごまかそうとしたのだ…  私のいつもの手だった…  すると、だ…  「…いえ、矢田さんを、見ると、生きることは、この上なく楽しそうに、見えますが…」  と、アムンゼンが、生意気にも、この矢田に逆らった…  逆らったのだ!…  「…なんだと?…」  「…矢田さんを、見ると、生きることって、こんなに楽しいんだと、思わせてくれます…矢田さんは、これまで、人に嫌われたりした経験は、ないでしょ?…」  「…ないさ…」  「…それは、矢田さんだからです…」  「…どういう意味だ?…」  「…矢田さんは、好かれます…老若男女問わず、国籍や人種を問わず、好かれます…身分を問わず、好かれます…そんな人間は、滅多にいません…」  「…なんだと?…」  「…嫌われる人間は、どこに行っても、誰からも、嫌われます…これは、万国共通です…身分の違いも、なにも、ありません…どんなに偉くても、嫌われる人間は、嫌われます…」  「…」  「…矢田さんは、太陽です…」  「…太陽だと?…」  「…ハイ…太陽が、おおげさ過ぎるとすれば、暖炉の火です…」  「…どういう意味だ?…」  「…火があれば、温かくなります…だから、寒くなれば、皆、そこに集まる…矢田さんと、同じです…」  「…なんだと?…」  「…矢田さんは、自分の力がわからないだけです…ですが、それは、誰もが、同じです…」  「…どういう意味だ?…」  「…誰もが、自分の力を正確に、掴んでいる者はいないということです…」  「…なんだと?…」  「…勉強でも、仕事でも、自分は、これだけ、できると思っていても、周囲の人間は、誰も、そこまでとは、思いません…」  「…」  「…これは、どんなことも、同じ…男女が、異性にモテると思っても、周囲の人間は、そこまで、その人間が、モテるとは、思っていません…」  「…どんな美男美女でもか?…」  「…そうです…」  「…どうしてだ? 美男美女だゾ…」  「…少し付き合えば、どんな人間か、わかります…いくら、ルックスが良くても、性格が悪かったりすれば、誰でも、引きます…」  「…引く?…」  「…そう、引きます…」  「…」  「…そして、世の中、すべて、そんなものです…」  アムンゼンが、まとめた…  私は、考え込んだ…  たしかに、そうかも、しれん…  が、  だとすると、どうだ?  この矢田の唯一の武器である、この巨乳…  もしかしたら、この矢田が、思うほど、威力がないということか?  この矢田が、思うほど、魅力がないということか?  私は、思った…  私は、悩んだ…  「…どうしたんですか? …矢田さん…難しい顔をして?…」  「…いや…別に?…」  「…矢田ちゃん、もしかして、胸が大きいのが、自慢だった?…」  いきなり、マリアが言った…  私は、驚いた…  なぜ、マリアに、私の気持ちがわかったのか、わからんかったからだ…  「…マリア…どうして、そう思うんだ?…」  「…だって、矢田ちゃん…今、自分の胸を見ていたから…」  これには、仰天した…  まさか、マリアが、この矢田の、ちょっとした動作を見ていたとは、気付かんかった…  「…矢田ちゃん、バレバレだよ…」  マリアが、続けた…  この矢田トモコの傷口に、塩を塗るように、続けた…  「…矢田さんの胸は…」  と、アムンゼンが、言った…  「…私の胸が、どうかしたのか?…」  私は、アムンゼンに舌鋒鋭く聞いた…  顔色を変えて、聞いた…  すると、アムンゼンが、黙った…  押し黙った…  私は、頭に来た…  「…言いたいことが、あれば、言えば、いいさ…」  怒気を含んだ声で言った…  すると、だ…  マリアが、いきなり、  「…アムンゼン…アンタ…子供のくせに、胸の大きな女が、好きなの?…」  と、言って、アムンゼンに詰め寄った…  「…どうなの? …答えなさい…」  「…いや、ボクは…」  「…いや、ボクは、なんなの?…」  「…マリアが、一番好きです…」  「…そう…だったら、矢田ちゃんの胸を見るんじゃない!…」  マリアが、鬼の形相で、アムンゼンを叱った…  私は、怖かった…  このマリアの将来が、怖かった…  これでは、マリアは、まるで、鬼…  誰と結婚しようが、鬼嫁になるのは、明らかだった(爆笑)…                <続く>
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