雨の演奏会5

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午前中はあんなに晴れていたのに。 天気予報だって降水確率0%だと言っていたのに。 本当に最近の天気はわからない。 私は今、家で乾かない洗濯物を眺めながら窓の外を見ている。今日は晴れるというから外に洗濯物を干したのに、午後になって徐々に天気が悪くなって慌てて洗濯物を取り込んだ。乾燥機はないから、部屋の中は洗濯物だらけで湿気がすごく気分が下がってしまう。私は主婦だ。夫と子どもが2人いる。 私は彼らのために毎日家事や育児をする。完璧にはできないけど、女性として家族に尽くす喜びをとても感じていて幸せだ。 「雨やまないかしら。」 今日は食材を買いにスーパーに行こうと思っていたのだ。今日は、魚が安いみたいだから魚の煮物と味噌汁、ご飯に漬物にするつもりだ。でも雨の日の買い物は面倒に感じてしまい、今コーヒーを飲んでいるのである。スマホで動画を見るついでに天気をみた。雨はすぐ止むみたいだ。もう少しゆっくりしていよう。私はまた窓の外に目を向けた。 しとしとと降り続く雨は、強くなってきている。 「あれ。私ったら目が疲れているのかしら。」 最近更年期障害の症状が出てきている。目も霞むことがあるし私も立派に歳をとった。だって今、雫の形の子ども達が5人も見えているんだもの。 お人形みたいに小さくてかわいい。5人はマジシャン見たいな格好をしている。 「こんにちわ。私たちは雨の鼓笛隊です。 今日はあなたに演奏を聴いて欲しくてきました。 どうぞゆっくりお楽しみください。」 小人たちは、おじきをした。そして3人が演奏を始めた。白雪姫の小人が歌っていた曲だ。曲に合わせて、マジシャンの二人はマジックをしている。 大きな箱を叩くと、リスやとり、ぶた、しかなどの動物が小人と同じサイズででてくる。出てきた動物も小人と一緒に音楽に合わせて踊っていた。 その後もお姫様の物語を演奏してくれた。音楽に合わせマジシャンの小人たちは、花や、宝石などを出してくれた。私はとても感動していた。可愛らしくて、昔親に買ってもらったおもちゃの人形と、人形の家を思い出していた。今どこにあるか、思い出せない。 3曲が終わると、少し皆とテンポがズレてしまう小人がドレスを着て私の前に立った。そしてその後ろにメイドや執事の格好をした小人が並んだ。 ドレスは少し大きいサイズみたいでズルズルと引きずり困った顔をする小人がかわいい。 「今日は、私たちの演奏を聴いてくれてありがとうございます。私たちは5人兄弟です。お父さんもお母さんも毎日私たちのために頑張っています。 お母さんは、手がカサカサしていていつも痛そうです。私はお母さんの手にクリームをつけてあげます。お母さんは、とても喜びます。お父さんとお母さんには夢があります。私たちの演奏で皆が幸せになることです。あと2曲ですが、お楽しみください。」 私にそう言うとまた演奏を始めた。 いつからだろうか。もともと私は独身だった頃、おしゃれが大好きだった。月に1回は美容室に行き、エステもしたし、ネイルもしていた。暇さえあれば服やアクセサリーや、靴を見にデパートを訪れていた。しかし結婚をして、子育てが始まると少しずつおしゃれを手放していった。子どもを傷つけてしまうからと、アクセサリーをつけなくなり、きれいな服や靴は動きにくいからスニーカーにガウチョパンツに変わり、髪も長いと面倒だからと短く切った。 そして今の私は、メイクもしないおばさんになった。おばさんになることは悪い事ではない。私は欲の無くなっていく自分を歳のせいだとあきらめてきた。 でも違う。ただ自分が楽を選んだだけだ。 もう子どもたちは赤ちゃんじゃないし、おしゃれをしても良いのにしないのは私だ。小人みたいに自分に合わないサイズの服を着てもかわいいではないか。もう一度おしゃれを楽しんでみようかしら。 雨は予報通り弱まってきた。気がつくと小人たちはいなかった。空には虹が架かって行く。 今日の買物のついでにたまには街を散歩してみよう。私は買物に出かける。
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