お迎え

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お迎え

授業を終えて、外に出ると白い車が門の前に停まっている! ドアにもたれて、脚を交差させるように立っている男・・・・・光輔だった。 車もおしゃれな上にスーツを着た光輔はまるで車のCMの様にカッコいい。 目が合うと片手を上げて手を振った。 「乙哉!」 学生達が一斉に乙哉を見た。 名前を呼ばれてしまえは、知らないふりもできない急いで車に乗り込む。 「光輔!迎えに来たの?」 「そうだ、シートベルトしたか?」 「来なくていいって言ったのに・・・・・」 「何でだよ、どっか行くつもりだったのか?」 「真っ直ぐ帰るよ」 「だったら、良いじゃないか」 「だって・・・・・みんな見てるし、恥ずかしいよ」 「何言ってんだ、なんならここでキスでもするか?」 「光輔!」 結局光輔に送ってもらって、マンションへ帰った。 光輔は乙哉を下ろすと仕事へ戻って行った。 忙しいなら、来なくて良いのにと思いながら、本当は嬉しい乙哉! 部屋で着替えを済ませ、買い物に行くために部屋を出た。 電車なら、帰りにスーパーへ寄るつもりだった。 光輔にスーパーへ寄ってと言えず、出直すことにした。 光輔は乙哉をおろした後直ぐに仕事に戻ってしまった、今夜逢いたいとも言えず走る車を見送った。 夕食の支度をして一人で食事をとる。 考えてみれば光輔と両思いになってまだ3日しか経っていない。 光輔が何処に住んでいるかもしらず、仕事以外何も知らなかった。 恋人だと言われても一晩寝ただけだ・・・・・少し離れただけで不安になってくる。 光輔が大企業の責任者だと言うのは知っている。 それだけに男の恋人なんて良いのだろうか? それとも奥さんがいるのではないだろうか? 次第に不安が膨れ上がる。 乙哉は光輔がゲイを公言している事を知らなかった。 夜になっても光輔からの電話はなく、一人寂しく眠りについた。 光輔が自分を抱いたのは、一夜限りの遊びの様な気がして胸が苦しくなる乙哉だった。 朝の目覚めは悪く、紅茶だけを飲んで大学へ向かった。 今日も光輔は迎えに来るのだろうか? 来ても困るし、来なければ不安になる。 光輔に会いたくてたまらない、それでも自分から電話をする事はできなかった。 仕事中で迷惑がられたら・・・・・電話に出なかったら・・・・・電話のそばに女性が居たら・・・・・様々な妄想が乙哉を苦しめた。 授業が終わっても、門まで行けない・・・・・もし、光輔が居なかったら・・・・・もし光輔が待っていたら・・・・・一体どっちが良いのか分からず、研究室でグズグズと時間を過ごした。 すっかり外が暗くなって、これなら車がいても居なくても気が付かない・・・・・そんな気持ちで門まで来た。 門を出ても誰も居ない、車も光輔も居なかった。 泣き出しそうなほど寂しくて、一体自分は何を考えていたのかも分からなくなった。 トボトボと駅まで歩き電車に乗った。 電車を降りて改札を出る、マンションまで俯いたまま歩いた。 涙が溢れて喉の奥が詰まりそうなほど苦しく、肩が震えて嗚咽が漏れた。 マンションまで来ると人の姿が見えた、泣いてる顔を見られたくなくて人がいなくなるのを待った。 マンションの入り口を見ながら、声を殺して泣いた。 早く部屋に戻って声を出して泣きたい。 そう思うのにいつまで待っても中へは入れなかった。
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