泊まるのは禁止

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泊まるのは禁止

「乙哉!今夜泊まっていいか?」 「ダメ」 「なんでたよ」 「明日仕事だから」 「じゃあ、週末は?」 「週末は実家に帰る」 「実家?」 「そう、実家でのんびりするんだ」 「ご両親が居るのか?」 「居ないよ、僕一人」 「だったら、俺行っても良いよな」 「いいよ、来る?」 「行く」 「泊まる?」 「良いのか?」 「いいよ」 光輔はそれから毎日迎えに来た、乙哉をマンションまで送ってまた仕事に戻る! いくら乙哉が断っても、必ず門から少し離れたところで待っていた。 乙哉はそんな光輔が堪らなく好きだ。 車に乗ると直ぐに光輔がシートベルトをしてくれる、車は滑るように走り出しあっという間にマンションへ到着する。 もう少し一緒にいたくても、光輔にはまだ仕事が残っている。 乙哉が我儘を言えば光輔を困らせてしまう、だから我慢した。 そんな乙哉のことがわかっているから、光輔はますます別れがたくなる。 車を降りる時乙哉の顔は泣き顔だ、そんな顔をされたら仕事なんて放り出してしまいそうになる。 だからと言って、そんな事をしたら乙哉が怒るのはわかっているから出来ない。 乙哉は車を降りてドアを閉めると、後ろも振り向かずにマンションへ入って行った。 それが一番いいと自分に言い聞かせて・・・・・ そして初めての週末金曜日、光輔は乙哉の実家を訪れた。 実家は古い趣のある日本家屋だった、庭のフェンスには早咲きの赤い薔薇が咲き誇り、家の裏には広い芝生の庭がある。 庭の隅には大きな桜の木。 光輔はこの家が大好きになった、無機質なマンションよりずっと気持ちが落ち着く。 そう言うと乙哉は嬉しそうに笑った。
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