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消せない記憶
大学の授業は月曜から金曜まで、一日3時間その他の時間は研究室で素材研究、技法研究を通して陶芸表現の造形的可能性を探る。
光輔は仕事の手を休め帰る時間には必ず迎えてきてくれる、今日も仕事を片付けいつもの場所へ向かった。
研究室を出たところで後から肩をたたかれた、振り向くと大学で同じゼミに居た男だった。
嫌な記憶がよみがえる………
「やぁ~桐谷?」
「久しぶり」
「元気だったか?」
「あぁ~」
「お前この大学にいたんだ………」
「あぁ」
「お前、今もあれか?」
「あれ?」
「ゲイかって………」
唇の端を少し上げてニヤリと笑う、その顔を見ただけで鳥肌が立つほど嫌悪感が沸き上がった。
「悪いけど人を待たせてるから………」
「待てよ!桐谷!」
声も聴きたくなくて、その場を離れるために校門へ向かった。
後ろから追いかけ大きな声で叫ぶ………「桐谷待てよ」
あいつはあの事を知ってから顔を合わせる度にチクチクと嫌味を言っていた男だった、その眼には侮蔑とあざけりと何とも言えない卑猥な色があった。
門を出て光輔の元まで走った、車のそばで光輔が待っている、そう思うだけで安心できた。
「乙哉!どうした?」
「光輔!」
「おーい!桐谷!待て!」
男が肩に手を掛ける寸前に光輔が男の前に立ちふさがった。
「失礼、なんか用か?」
「お前じゃない、おい!桐谷話そうぜ」
「お前に用はなさそうだ、帰ってくれるか」
「お前誰だよ、どけよ」
「いい加減にしろ!乙哉に構うな」
「あぁ~お前がこいつの彼氏か」
「そうだが、何か?」
「ふ~彼氏を見つけたってわけか」
「君の胸のバッジは社章かな?」
「そうだ、だから何だ」
「社章をつけてそんな態度じゃ会社の恥になるんじゃないか」
「なにぃ~余計なお世話だ」
「君の事を心配してるんだよ」
「乙哉!行こう!
車に乗り込むと、あいつの顔と一緒に昔の記憶がよみがえる。
苦しくてつらかったあの時………親友と思っていた男からの酷い言葉、そして取り巻き達からの侮蔑と嘲りの言葉。
さっきの男もその一人だった………
「大丈夫か?」
「ありがとう、もう大丈夫」
「あいつは?」
「同じゼミの………」
「何があったのか話してくれるか?」
「………」
「今夜仕事が終わったら行く」
「うん」
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