油断

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油断

今回新規事業を立ち上げるにあって、全権を任せたのは、本社営業部長の二階堂秀平、42歳! 判断力と実行力に長け、上におもねる事なく部下には優しい男だ! 40代とは言え気力体力は十分で、健康管理と自己管理もしっかりとしている。 元はモデルという事もあり、服装にもそれなりの金をかけている事がよく分かる。 若い頃は男女共に浮き名を流した事も承知の上だ、その彼がいまだに独身を貫いているという事は彼にとっての運命の人が現れていないという事だろう! 自分にしても、もし乙哉が現れなければ今だに溜まった熱を発散するだけの行為でやり過ごしていだかも知れない。 乙哉に巡り会えた幸運を今更ながらに実感する。 二階堂の挨拶と役員紹介、事業のコンセプトの紹介、祝辞などが終わり、二階堂が光輔の元へ挨拶に来た。 「会長、この度はありがとうごさいました」 「君の手腕とくと拝見するよ。思う存分辣腕を奮って頂きたい!期待してます。」 「精一杯頑張ります。   ところでこちらは?」 「紹介します、彼は私のパートナーで桐谷 乙哉(きりたにおとや)君です。お見知り置きください」 「始めまして、桐谷です」 「始めまして、二階堂です。  それにしても素晴らしい。」 「どうかしましたか?」 「いや〜これほどの美丈夫、久しぶりにお目にかかりました。現役のモデルにも引けをとりませんね」 「とんでもありません、かい被りです」 社長の言葉もどこ吹く風、乙哉本人はまるで自覚もなく、ただの挨拶だと受け流しているところが可愛い! 二階堂ほどの男があれ程誉める事は滅多にないというのに・・・・・光輔は内心ほくそ笑んだ。 二階堂はいつまでも乙哉を見つめ、他への挨拶も忘れてしまう程乙哉に見惚れていた。 「二階堂社長!みなさんお待ちですよ」 「あっ!失礼しました。それでは私はこれで・・・・・会長、桐谷さんまたお目にかかりましょう」 光輔はなるべく乙哉から離れないように周りに目配りを怠りなかった。 だが、立場上そうもいかず乙哉をその場に残し、挨拶をするために乙哉から離れた。 「乙哉!挨拶をしてくる、ここから離れるなよ」 「わかってる、早く行けよ」 乙哉は全く気づいていなかった、会場にいる多数の人が乙哉を気にかけていた、そして光輔が側から離れるタイミングを虎視眈々と待っていた。 光輔がその場を離れた途端、一人の男が歩み寄った。 「お久しぶりです、覚えていらっしゃいますか?」 「・・・・・はい!確か作品展のパーティーでお目にかかった」 「良かった覚えててくれたんですね、僕宝生 祐月(ほうしょう うづき)です。」 この会場には、現役のタレントやモデルは招待していないはずだった、モデル事務所の代表や役員それに報道関係者などに限られていたはず・・・・・ アイドルである彼が何故この場所にいたかは不明だが、彼の目的が乙哉である事は明白だった。 彼は乙哉を会場の外にある、テラスへ誘った。 あれ程動くなと言われていたにも関わらず、乙哉は彼の誘いに乗った。 それはただ単にアイドルという存在に興味があったのと、見惚れてしまうほどの美貌の彼に誘われた事が嬉しかったのは否めない。 光輔が知れば不機嫌になるのは目に見えているのに、つい誘いに乗ってしまった。 他意はない、ただ興味があっただけ・・・・・それだけだった。
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