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作品展
完成した作品を馴染みのギャラリーに展示する。
乙哉にとってこの場所が唯一作品を託せる場所だった。
全ての作品を預けてはいても、よほどのことがない限り滅多に売却する事はない。
納得のいく相手だけに作品を譲り渡す、職業も名声も社会的立場も関係なく、ただ作品への愛をわかってくれる人だけに手にして欲しかった。
公共施設からの依頼には、無償で譲渡する。
決して作品に値段を付けたくない、価格での評価はして欲しくないと思っている。
作品を納め自宅へ帰ると、パソコンに一通のメールが来ていた。
作品展の依頼だった・・・・・これまで一度も作品展はした事がない。
自分の作品はコンテストにも公募展にも出していない。
そんな自分の作品を何処で見たのだろう?
作品展をやりたいとまで気に入ってくれたという事だろうか?
差出人は誰でもその名を知る大手企業の最高責任者【蔵橋光輔】とあった。
一度もあった覚えはなく、名前も初めて聞いた・・・・・
翌日ギャラリーを訪ね、オーナーにメールの内容と名前を告げた。
どうやらこのギャラリーに何度か足を運んでいるらしいとわかった。
できれば一度逢って、人となりを確認したいと告げた。
自分にとって全ての作品は分身と同じだ、ただ気に入ったからと許可を出したくない。
オーナーの取り計らいで翌日ギャラリーで会う事になった。
翌日ギャラリーに到着すると、応接室でオーナーに紹介された。
「桐谷さん、こちらが蔵橋 光輔さんです」
「始めまして、蔵橋です」
「始めまして、桐谷 乙哉です」
「あなたの作品は以前から拝見しておりました。 とても繊細で美しい」
「ありがとうございます」
「メールをご覧いただけたかと思いますが、作品展の件如何でしょうか?是非ともあなたの作品を一同に集めて拝見したいと思っています」
「これまでの作品でこちらのギャラリー以外には、すでに人手に渡ったものもありますが、それらもでしょうか?」
「勿論、できれば全て拝見したい!人手に渡ったものは、こちらから御連絡を入れてお借りする手筈を取るつもりでいます」
「そこまでされるおつもりですか・・・・・」
「是非ともご承諾頂きたい」
「わかりました、お任せいたします!場所はどちらでされるご予定ですか?」
「我が社の本社ビルの25階が美術館になっておりますので、そちらで展示をするつもりです。期間は3週間」
「わかりました」
乙哉にとって彼の印象は好感の持てるものだった。
蔵橋はおそらく自分より、5.6歳上だと思われたが高身長と体格の良さ、それに稀に見る美貌と纏うオーラで年齢より若干上に見えた。
彼の声は耳に優しく、作品を熱く語る声が耳に残った。
大学時代ゲイだと揶揄されてから、男性を意識しないようにして来たはずが、彼の事は深く印象に残った。
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