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あの日から
ひと月分の食料は歩荷に頼んで搬入済みだ。
車を山の麓の駐車場に停めて、窯場まで3時間の山登り。
緩んだ体を引き締め、窯場を目指す。
大学は春休みに入り、山を降りる頃には新学期も始まる。
庭の桜も満開を迎えている頃だろう・・・・・そうだ、黒い壺に桜の花を咲かせようと思い立った。
数輪の桜の花と柔らかく掬んだ蕾、そしてひらひらと舞い散る桜の花びら・・・・・想像しただけで、ワクワクする。
早く作品に取り掛かりたくて、急な斜面も苦にならない。
普段より幾らか早く到着すると、作業小屋の前には食料の入った箱が置いてあった。
住まいの扉を開けてブレーカーを上げ、冷蔵庫に食料を入れた。
閉め切った窓を開け、湿った空気を入れ替え、寝室の布団を外に干し部屋を整える。
ここへ来たのは半年ぶりだ、半年前山を降り光輔からのメールを見た。
光輔と出会い愛し合う喜びと信じる喜びを知った。
光輔から与えられる快感に震え、生まれて初めて感じた絶頂感に震えた。
あの頃の自分と今の自分、気持ちも身体も変わり、作品に対する考えも、デザインの構想も変わった。
ギャラリーのオーナーは気がつくだろうか?
まさか、光輔とこうなったとは思ってもいないだろう。
作品を見た彼を想像する・・・・・彼なら変化に気づくかも知れない。
作業小屋の戸を開け、粘土の匂いを吸い込む。
早速最初の作業に取り掛かった、懐かしい土の手触り・・・・・やっぱり自分は陶芸が好きだと改めて思う。
菊練りまで終えて、晩の食事のために米を準備する。
今夜のおかずは、鯖缶とインスタントの味噌汁、新鮮なレタスのサラダ!
野菜は精々2週間で使えなくなる、到着した時だけの贅沢だ!
ピーマンはある程度の大きさに切って、冷凍しておけば大丈夫!
食パンも冷凍して、朝と昼の食事に変化をつける食材として使用する。
パスタもインスタントラーメンも重宝する食材だ。
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