光輔不足

1/1
前へ
/50ページ
次へ

光輔不足

山へ来て13日が経った、堪らなく光輔に逢いたい。 だが今ここを離れるわけにはいかない、山を降りたところで光輔はまだミラノで日本にはいない。 せめて電話で声でもいい・・・・・そう思っても電話は勿論、ネットすら繋がらない。 作品が出来るまではまだだいぶ掛かる、急いで作れるものでもなく、乾燥には時間をかけるしか無い。 焦る気持ちで作品を駄目にする事など出来ない。 光輔が帰ってきても、ここにいる限りは逢えない・・・・・光輔はどう思っているのだろう。 逢いたいと思ってくれているのだろうか? ミラノに同行したモデル達はみんな素敵な人たちばっかりだった・・・・・2週間も一緒にいたら・・・・・気持ちが混乱しあり得ない事が現実に思え、自分で自分を苦しめた。 心配と不安で作品なんて放り出して帰ってしまおうかとさえ思う。 でも、そんな事をしたら光輔は自分にガッカリするだろう。 恋愛にうつつを抜かし、大事な仕事を放り出すような男だと失望されたく無い。 逢いたい気持ちと、作品を仕上げる使命感の板挟みで心は千々に乱れ、夜になると夢にまで光輔が現れる。 夢でもいいから逢いたいとは願っても、夢に出てくればまた逢いたくて堪らなくなる。 泣きたくなるほど光輔に逢いたかった。 冷たい布団の中で身体を丸め、眠ろうと目を閉じる。 耳の奥がジーンとなるような静寂が訪れた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加