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二人
作品展の初日は招待客だけとなっている、多くの招待客が会場を訪れた。
作品毎に制作年と所蔵の有無が書かれたプレートが置かれている。
会場を訪れた客が一様に立ち止まるのは金魚の描かれた白い壺、乙哉は光輔と顔を見合わせる。
あの作品にみんなの注目が集まるのが嬉しかった。
「乙哉!おめでとう」
「光輔のおかげだよ。ありがとう」
「今夜は二人だけでお祝いをしよう」
「はい」
光輔の言葉に素直にそう言えた。
光輔の視線が刺さるように乙哉を見つめた………自分でも不思議なくらい、身体が熱くなってくる。
乙哉は光輔の事を好きだと意識していた、好きだ………勿論それを告げるほど愚かではない。
同じ轍は踏まないと自分に言い聞かせた。
光輔と二人だけの夕食、これまでランチは何度か共にしたが、夕食は始めてだった。
迎えの車に光輔と乗り込む、広くてゆったりとした後部座席、隣に座る光輔の手が触れそうなほどそばにあった。
思わず膝に置きなおす、何度見ても光輔の顔は見飽きない、横顔も正面からももう何度も盗み見ている。
きりりと高い鼻も固く結ばれた少し厚めの唇も黒く輝く大きめの瞳も、全部が魅力的だった。
光輔がこちらを向いた、慌てて正面を向き直る………
「乙哉!どうした?見惚れたか?」
「ち…違いますよ」
「君の方がずっと魅力的なのに、わかってないのか気が付かないふりか?」
「僕なんてあなたに比べたら、何の魅力もありませんよ」
「本気でそう思ってるのか?それなら俺はどうして君に夢中なんだろうな」
「………」
これはただのビジネストークだとわかっていても嬉しい、こんな素敵な人が自分を好きだと言ってくれたら………
過去の嫌な経験など吹き飛んでしまうだろう。
顔も耳も首も紅くほてり、胸の奥で心臓が大量の血液を一気に送り出していた。
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