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アイドル
二人で最上階のラウンジへ向かう、入り口には黒いスーツを着た男たちが入場者をチェックしていた。
今夜は作品展のために購入済みの作品を提供してくれた人や、ごく親しい人だけの内輪のパーティだ。
それにしては男が多く、通常のパーティーなら華々しく着飾った女性が多いはずなのに、女性の数は数えるほどしかいなかった。
光輔とラウンジの中央に着くと、会場の灯かりが消され、二人の姿がスポットライトに照らされた。
光輔がマイクを持ち作品展の謝意と乙哉を紹介した。
会場中から拍手が沸き起こる、光輔が乙哉の背に当てた手を腰に移動させた。
少し押し出され前に進むと、マイクを持たされ挨拶をする。
人前で挨拶をするのも、大勢の人の前に立つのも身がすくむ。
会場を光輔と一緒に歩き一人一人にお礼を伝え、素敵な作品だと賞賛の言葉を浴び、握手をする。
慣れないつくり笑顔で顔が引きつりそうな気がする。
一通り挨拶が終わって、カウンターに腰掛け冷たいカクテルを飲んだ。
光輔は乙哉を置いて離れていった………一人取り残される。
「こんばんわ」
後ろから声を掛けられ振り向くと、美しい青年が立っていた。
「こんばんわ!
僕、宝生 祐月です。作品拝見しました。白い壺が素敵でした。紅い金魚が可愛いですね」
「ありがとうございます。私もあの作品は気に入っています」
「よかったら、お話しませんか?」
「エッ!」
「僕のこと知りません?」
「………どこかでお会いしましたか?」
「………いいえ、逢ったのは始めてです」
「乙哉、知り合い?」
「光輔」
「彼になにか?」
「失礼しました。素敵な方ですね、お話できて良かったです。またお目にかかりましょ」
「………はい」
「乙哉!なに見惚れてんだ。誰だか知ってて話してるのか?」
「………知り合い?」
「あいつは今人気のアイドル、宝生 祐月だ、知らなかった?」
「知らない、TV見ないから………そうなんだ、どうりで綺麗な顔してるなって思ってた」
「気になるか?」
「そうじゃないけど………」
「そうじゃないけど、なんだ」
「怒ってる?」
「乙哉があんなのが好みだとは思わなかったな」
「好みじゃない………勝手に決めつけるな」
始めての口喧嘩・・・・・怒った乙哉を置いて、光輔は去って行った。
そしてパーティが終わった。
光輔の姿はなく入り口で帰る人を見送ると、ラウンジを出て人波に押されるようにエレベーターに乗り込んだ。
ビルの外で冷たい風に当たると光輔と最後だと言う思いで胸がいっぱいになった。
折角のパーティーも気まずい雰囲気になった、ろくな挨拶も出来ず、お礼も言ってない。
だからと言って、今更戻るわけにもいかず、だからと言ってこのまま帰る気にもなれない。
ホテルの前で立ち尽くす・・・・・
「乙哉!待て!」
光輔の声が聞こえた・・・・・
「光輔………」
「乙哉!どうして先に帰るんだ。俺を置いていく気か?」
「光輔………」
みっともなく泣きたくないと思うのに、涙は止まらず言いたいことも声にならない。
早く好きだと言わなければ、二度と言う機会はなくなると思うのに………好きだと言う言葉が出ない。
「泣いてるのか?どうした?」
そう言いながら光輔が腕を引いた………凭れるように倒れこむ。
勇気を出して、秘めた言葉を絞り出す。
「………好きだった、今日までありがとう」
「本当か?俺もだ・・・・・遅くなってごめんな」
光輔が優しく髪を撫でた。
優しい手で何度も何度も頭を撫で、強く抱き締める。
「光輔………俺………男だけど………」
「だから何だ………俺はお前が好きだって言っただろ。それでは不満か?」
怒ったように光輔が言った。
「怒ってる?………」
「まったく………世話焼かせやがって、気が付けばいなくなってるし、どうして先に帰ったんだ」
「だって………怒ってただろ・・・・・」
「それで泣いてたのか?」
「違う、もう逢えなくなると思った………作品展が終われば………光輔は俺なんか忘れるだろって………そう思ったら・・・・・泣きたくなった」
「ばかだな・・・・・俺がお前を忘れると思うか?」
光輔は乙哉を抱きしめ、熱い口づけをした。
乙哉にとって始めての口づけだった………
突然のキスに驚いた乙哉が唇に指を当ててつぶやいた・・・・・
「初めてキスした………」
「そうなのか?俺が始めて?」
「うん………光輔は・・・・・違うんだ」
「………ッ………いや、俺も始めてだ」
「嘘ばっかり………」
「本気のキスは始めてだけど、それじゃダメか?」
「………過去は変えられないもんね」
「乙哉!そんなこと言うなよ。本気で好きになったのは乙哉が初めてなのに………」
「わかった………」
「今夜はお祝いしようか?」
「またお祝い?」
「そうだよ、乙哉をやっと手に入れたお祝い」
二人はタクシーに乗った、向かった先はホテルのスイートルーム。
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