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痛み
私は車に乗せられていた。
沢山さんの車に。
朝倒れている私を最初に助けてくれたのは、出勤してきた沢山さんだった。
動けない私は二人掛かりで沢山さんの車に乗せられ、病院に向かっている。
痛いことよりも緊張と恥ずかしさと申し訳なさで身が縮まる。
どうしよう迷惑をかけてしまった。これって労災?なんて謝ろう。今日に限ってどうして。でも沢山さんの車に乗ってる。いろんなことが頭をぐるぐると回って、結局なにも口に出せないまま病院についた。
「大丈夫?動ける?」
「はい。大丈夫です」
「肩につかまって」
「ひゃっ!」
沢山さんの手が腰に触れて変な声が出てしまった。
「あ、ごめん」
沢山さんが慌てて手を離した拍子にバランスを崩し、そのまま二人して車の座席に倒れ込んだ。
「きゃっ!」
「ご、ご、ごめん」
抱きつくような恰好になり、慌てて沢山さんが立ち上がった。
ゴン。
大きな音とともに沢山さんがまた倒れ込んできた。
どうやら頭を打ったらしい。
よほど痛いのか後頭部を押さえたまま動かない。
「だ、大丈夫ですか?」
「...大丈夫...じゃない感じ」
その答えを聞き、思わずぷっと吹き出してしまった。
”大丈夫”以外の答えを初めて聞いた。
沢山さんの体の熱さを感じながら、もう自分の痛みなんてどうでもいいと思った。
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