ゆび

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ゆび

「どう仕事は慣れた?」 休憩時間、トイレの前で会った沢山さんと目が合った。 「う~ん、難しいです」 「どういうところが?」 「え~と、こうやって、ぐいぐいダイヤル回すところが」 そう言ってひねるように手を動かしていると、唐突に綺麗な指だねという声が聞こえて思わず手を引いた。 「え?」 「あ..」 沢山さんの”しまった”という顔が見えた。 「ご、ごめん。セクハラだね」 「え?いや、そんなことないけど、びっくりして」 今まで自分の指なんて気にしたことなんてなかった。 きれい...なのかな? 「確かにあそこは、力がいるわりに微調整も必要で、みんな最初は難しいっていうけど、理沙さんならすぐ慣れるよ」 もうなんでもなかったかのようにそう言うのを聞き、なんだか拍子抜けした。 「はい...。頑張ります」 なんでもなかったんだよね。どういう意味があったのか分からずその人を見る。 「うん。よろしくね」 「は、はい」   私がそう言うが早いか、足早に去って行った。
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