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私は何も言い返すことができず、ただただ青い顔をしながら靴の爪先を眺めていた。
「でもさあ、佐々木先輩のことはともかく、私らって一応友達じゃん? 友達のことも蹴落とそうとするんだね。さすがにないわ」
言いながら、彼女は叩きつけるようにして手元のメモを私に返す。
「結べばいいじゃん、それ。別にそういう迷信とか信じてないし、私。何なら私が結んであげようか?」
私が返事をする間もなく、彼女は再び私からメモを奪い取ると、そのままフェンスに括り付けてしまった。
「友達に高熱出して寝込めってさ、相当性格悪いよね、あんた。そういうあんたこそ日曜日にはひどい目に遭えばいいよ。事故とか事件に巻き込まれて、死んじゃったりとかさ。まあ、私はそんなのメモに書いて結んだりしないけどね。まだあんたほど落ちぶれてはいないから」
そこまで言うと、彼女はこちらに背を向けて、別れの挨拶もなしに歩き去ってしまった。
その場にひとり残された私は、へなへなと腰が抜けたように蹲った。
やってしまった。
陰で友達に酷いことをして、その犯行現場を見られてしまった。
彼女はあくまでも迷信だと言って信じはしなかったけれど、この願掛けは神様に通じるものなのだ。
おそらく彼女は今度の土曜日に、高熱を出して寝込むことになる。
そして私は、
——ひどい目に遭えばいいよ。事故とか事件に巻き込まれて、死んじゃったりとかさ。
彼女がその願いをフェンスに括り付けなかったことに、私は心の底から安堵していた。
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