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「あっ、やべ! 俺さっきの店にスマホ忘れたかも。……へへ、すぐ忘れ物しちゃうんだよなぁ。ちょっと取ってくるから、ここで待ってて!」
まるで漫画みたいに表情をコロコロ変えながら、彼は小走りで元来た道を戻り始める。
歩道の真ん中に取り残された私は、離れていく彼の背中を遠く見つめる。
神様はきっと私ではなく、彼の願いを聞き入れてくれるだろう。
そして彼は、身近にいる誰かの願いを叶えてくれるという。
——当日は記録的な大雨が降りますように。
かつて私が書いたあの願いは、神様が聞き入れてくれたのではなく、もしかすると、叶くんが叶えてくれたのかもしれない。
——ひどい目に遭えばいいよ。事故とか事件に巻き込まれて、死んじゃったりとかさ。
ふと。
先日、結衣から言われた言葉が頭を過った。
なぜ今このタイミングで、彼女のことを思い出したのだろう?
「……きゃあああああ!」
どこからか、女性の悲鳴が上がった。
見ると、車道を挟んだ向かいの歩道で、複数の通行人がこちらの頭上を仰いでいる。
ちょうど私の真上の辺りを見て、誰もが驚いたように口を開けている。
私の頭上——おそらくはビルの上階で、何かが起こっている。
そう理解したとき、私は初めて自分の真上を仰いだ。
ビルの隙間から見える青空を期待した私は、そこに広がる景色に裏切られた。
いつのまにか、ビルの屋上から落下してきた巨大な看板が、私の頭上を覆い隠していた。
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