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◯
叶くんとデートすることができますように——と、いくらか控えめにした願いをフェンスに結んだ直後のことだった。
たまたま忘れ物を取りに戻った夕暮れの教室で、私はばったりと叶くんに出会った。
「えっ。あ……叶くん?」
彼は教室の真ん中で、自分の席で何やらゴソゴソとやっていた。
そして私の姿を目にするなり、ぱっと顔を明るくしてこちらに笑いかける。
「あれ、珍しいね、こんな時間に。ちょっと忘れ物をしたんだけど、君も?」
こくりと頷いた私は、すでに心臓がばくばくいっていた。
彼と教室で二人きり、なんて。
こんなチャンスは滅多にない。
——叶くんとデートすることができますように。
先ほどメモに書いた文字が頭を過ぎる。
まさかとは思うけど、あの願いを叶えるチャンスを、神様がさっそく与えてくれたとでもいうのか。
「どうしたの、そんな所に突っ立って。具合でも悪いの?」
彼はいつもの優しい声で問いかけながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ああ、神様。
これはつまり、そういうことなのですか……?
「……あ、あのっ……」
やがて目の前まで迫った彼を見上げ、その整った顔立ちを真っ直ぐに見つめながら、私は震える声を搾り出す。
彼は「うん?」と笑顔のまま首を傾げる。
私は今にも逃げ出してしまいそうな足を踏ん張って、自分史上最大の勇気を振り絞る。
「わ、私とっ……でっ、デート、してもらえませんか!」
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