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確かに、今の僕達にとってこの世界が住みやすいものだとは言えない。
LGBTに配慮しよう、みたいな考えは浸透していっているものの、何やら斜め方向にかっとんでいって“いやそうじゃないから!”なんて思うことも少なくなく。そっちへの生理的嫌悪を隠さない人もいれば、今認知されている多数の性への配慮と、その両方の模索なんてできっこないと匙を投げる人もいる。
それらが相まって、多分まだまだ当面僕達みたいな人間は悩み続けることになるだろう。
ただ一つ確かなことは。そんな世界であってもなお、僕は明日も愛する人に“ハロー”と言い続けたいということだ。
「おかえりなさい、高槻さん。えっと、再来週の誕生日なんだけど……お、お祝いしても、いい、かな」
姉に相談したその日の夜。
バイトから帰ってきた彼に勇気を振り絞って僕が言えば、彼はきょとんとした顔になったのだった。
「え、え?……最近妙に歯切れ悪いし、どんな怖い秘密隠し持ってんのかと思ったら……お前が言いたかったのって、それ?」
「そ、そうです!た、誕生日のお祝いとか、子供っぽいって怒られそうだなって……」
「そんなわけあるか!お祝いされるのはいくつになっても嬉しいもんだろ。何、ケーキとか買ってくれんの?」
「は、はい!ケーキも買うし、誕生日プレゼントも実はもう用意してあって」
「なんだよ、最高じゃん!」
ああ、この笑顔が見たかったんだ。
高槻さんの向日葵のような微笑みを見て、僕の心はぽかぽかと温かくなる。今ならそう、何も恐れずに言うことができるだろう。
「高槻さん、これからもよろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」
このワンルームで、僕達は今日も愛を歌っている。
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