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「はあ……」
ため息をつく。
「はああああああ……」
ため息を、つく。つくったらつく。
その様子に痺れを切らしたのか、真正面に座る彼女が口を開いた。ちなみにここは、駅チカのとあるレストランである。
「あんたね、いい加減うざい。せっかくのパフェがまずくなるんですが?」
「……ゴメンナサイ」
「わかってるならその顔やめなさいよ、暗っ」
「……この顔は生まれた時からこの顔なんで……」
「馬鹿、そういう意味じゃないっつーの」
彼女の名前はみのり。ちなみに僕の名前はみのる。どっちも平仮名でみのり、みのる――のあたりでお察しかもしれないが、彼女は僕の実の姉だった。七つ年上で、早々に東京に出てきて社会人をやっているお人。昔から勝気で言葉がきつい時もあるが、僕とっては昔から良き相談相手でもあるのだった。
それこそ、両親よりも先に、僕がゲイであることをカミングアウトした相手でもある。彼女がいわゆる“腐女子”なるものだと知っていたため、受け入れて貰えそうだと判断したのもあったのだが(そして実際、彼女は現実のゲイに関しても極めて寛容だった)。
「相談があるならちゃっちゃと言いなさい。あんたのために、休日を使ってこっちに来てやってんだから。心配しなくても、奢ってもらったパフェの分くらい、誠実にお話聴いたげるわよ」
言いながら、彼女はぱくぱくと目の前のパフェを消費していく。ソフトクリームに、たっぷり緑色のメロンシロップがかかっており、さらに夕張メロンの切り身が三つも突き刺さっているという豪華っぷり。下手にスプーンを入れるとメロンが落ちそうなのだが、さっきから彼女は器用に下のクリームから消費を続けていた。どういう手品を使っているのやら。
「……高槻さんの誕生日が、もうすぐでさ」
僕の目の前には、彼女のパフェより少々安上がりなクリームソーダが置かれている。ストローを時折ちゅーちゅー吸いつつ、僕はようやく話しを切り出したのだった。
「誕生日ケーキとプレゼントで、お祝いしようかなと思ってるんだけど」
「へえ、いいじゃない。喜ぶと思うけど?」
「本当に喜ぶかなあ。いや、お祝いは喜んでくれると思うんだけどさ。プレゼント買ったはいいけど、あの腕時計ちょっと幼いデザインのような気がしてきて。それに、いい年の大人の男が、ホールケーキ買ってもらうのもどうかなって思いそうだというか。は、恥ずかしいと思われそうだというか」
それに、と僕は続ける。
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