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明日もハローと歌ってる
「おっと、そろそろ時間だ。行ってくるわ」
「え?あ、うん。そっか、そうですよね」
「おう」
時計を見て、高槻さんが立ち上がる。僕は妙にひっくり返った声で返事をしてしまった。
ゲームをしていると、ついつい時間を忘れてしまう。特に僕達が大好きなトレーディングカードゲームは、頭脳のスポーツだと言われることもあるほど頭を使うゲームである。
彼が並べたカードを回収し、デッキケースにしまうのを僕は黙って見ていた。
――今日こそは、今日こそは言うんだ。あのことを。
このままだと、またタイミングを逃してしまう。別に、長話になるような用事でもない。ほんの軽く、そう彼がバイトに行く前にちょっと軽く確認するだけでいいはずではないか。なんのためにルームシェアをしているのか。四六時中同じ屋根の下で暮らしているのに、こんなシンプルな質問もできないなんて本当にどうかしていると自分でも思う。
――勇気を出すんだ、僕。べ、別にちょっと、ちょっと訊くだけなんだからあの話を。何も不自然じゃないし。別に、おかしなことでもなんでもないんだし……。
自分のカードを集める手が、完全に止まってしまっている。そんな僕を見て、高槻さんは何を思ったのだろう。
「……あのさあ」
「え?な、何ですか?」
「……なんでもね」
彼も彼で、何かを言いかけてやめてしまった。深い深いため息。僕が知らないうちに、何かをやらかしてしまった時の態度だ。
どういうことだろうと困惑する僕をよそに、彼はさっさとデッキを鞄にしまって腕時計を嵌めると、玄関の方へ向かってしまった。
「じゃあ、行ってくるわ。今日は多分帰り、遅くなるから」
「あ、はい……いってらっしゃい」
告げられた言葉がなんだか冷たく聞こえたのは、気のせいだろうか。
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