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次の日、学校帰りに公園の池へ行ってみると、そこにはもう、鯉が一匹もいなくなっていた。もちろん、オジサンの姿もない。いつもなら声をかけるとすぐにひょっこり顔を出したのに、今日は何度声をかけても出てこなかった。
方法を考えるとは言っていたけど、やっぱり駄目だったみたいだ。きっとオジサンや池の鯉は、夜の間に大きな水槽に入れられて、トラックで鯉ランドに運ばれてしまったに違いない。
僕は凄く落ち込んだ。この池は、僕にとってただ一つの心が落ち着く場所だったのに、オジサンがいなくなってしまっては意味がない。せっかく友達になれたのに、それがこんな形でお別れになるなんて。でももう諦めるしかないんだな、とがっくり肩を落としながら、僕はもう帰ろうと思い、とぼとぼ歩き出した。その時、
「おーい」
と、聞き慣れた声が聞こえてきた。すぐに池の方を見てみたのだけど、そこには誰もいない。あれ、おかしいなと思っていると、もう一度、
「おーい、こっち、こっち」
と、後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、鯉が一匹、陸に上がっていた。姿は少し変わっていたけど、間違いなく、人の顔をし、人の言葉を喋る、人面魚のオジサンだった。
「オジサン!」
「こうなるのに、苦労したんだぞ」
「凄いねオジサン! 陸に上がれるようになったんだね!」
「まあ、なんとか間に合ったよ」
オジサンは少し照れたような様子で、
「これからも、よろしくな」
と言った。
オジサンの体からは、昨日までなかった四本の足が生えていた。
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