オジサン

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 次の日、また学校帰りに公園へ行って、人面魚のいる池を覗いてみた。ここの公園はほとんど人が来ないので、誰かに見られることもまずないと思う。喋る人面魚なんてものが見つかれば、きっと大騒ぎになるはずだ。 「おーい。食パン持ってきたよー」  人面魚は、池からひょっこり顔を出した。 「おー、君か。待ってたよ」  僕はさっそく、食パンを食べやすいように細かくちぎって、池に投げてみた。すると、泳いでいた鯉たちがいっせいに集まって、競うようにしてぱくぱく食べ始める。人面魚もその鯉たちに混じって、食パンの欠片にぱくついていた。 「いやー、ありがとう。俺もお腹空いてたから、助かったよ」  食パンが全てなくなると、人面魚は満足した様子でそう言った。 「そういえば君、名前はなんて言うの?」 「タカシだよ」 「タカシか。いい名前だな。タカシは今、何年生?」 「五年生だよ。君にも、名前はあるの?」 「俺に名前はないから、まあ好きに呼んでくれ」 「そっか。じゃあ、君の顔、死んだ親戚のおじさんに似てるから、オジサンって呼ぶね。雰囲気も、なんだかその辺にいるおじさんっぽいし」 「そんなに喜べない呼び名だけど、まあオジサンでいいよ」  オジサンは少し嬉しそうに、はっはっはっと笑う。 「オジサンは、いくつなの?」 「うーん、いくつなんだろうなあ。わかんないなあ」  そのあと僕はオジサンに、いつからこの池にいるのか、とか、どうして人の顔をしてるのか、とか、どうして人の言葉を喋れるのか、とか、いろいろ質問をしてみたのだけど、それはオジサン自身にもわからないみたいだった。気づいた時には池にいて、人の言葉が理解できるようになっていて、喋ることもできたらしい。世の中には不思議なことがあるんだなあ、と僕はそう思った。 「それより今日、学校はどうだった?」 「いつも通りだよ。僕は毎日、いじめられてるから」 「じゃあ君を元気づけるために、歌を歌ってやるよ」  オジサンが、僕の知らない歌を歌い出した。五分くらい、上手でもないおじさんの歌声を黙って聞いた。歌い終えたオジサンに知らない曲だったと伝えると、 「タカシは知らないのか。昔けっこう流行った曲だったんだけどな」  と驚いていた。  その日は一時間くらい、池でオジサンと喋った。謎の生物だけど、オジサンがいい人、じゃない、いい魚だ、ということはわかった。
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