0人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、また学校帰りに公園へ行って、人面魚のいる池を覗いてみた。ここの公園はほとんど人が来ないので、誰かに見られることもまずないと思う。喋る人面魚なんてものが見つかれば、きっと大騒ぎになるはずだ。
「おーい。食パン持ってきたよー」
人面魚は、池からひょっこり顔を出した。
「おー、君か。待ってたよ」
僕はさっそく、食パンを食べやすいように細かくちぎって、池に投げてみた。すると、泳いでいた鯉たちがいっせいに集まって、競うようにしてぱくぱく食べ始める。人面魚もその鯉たちに混じって、食パンの欠片にぱくついていた。
「いやー、ありがとう。俺もお腹空いてたから、助かったよ」
食パンが全てなくなると、人面魚は満足した様子でそう言った。
「そういえば君、名前はなんて言うの?」
「タカシだよ」
「タカシか。いい名前だな。タカシは今、何年生?」
「五年生だよ。君にも、名前はあるの?」
「俺に名前はないから、まあ好きに呼んでくれ」
「そっか。じゃあ、君の顔、死んだ親戚のおじさんに似てるから、オジサンって呼ぶね。雰囲気も、なんだかその辺にいるおじさんっぽいし」
「そんなに喜べない呼び名だけど、まあオジサンでいいよ」
オジサンは少し嬉しそうに、はっはっはっと笑う。
「オジサンは、いくつなの?」
「うーん、いくつなんだろうなあ。わかんないなあ」
そのあと僕はオジサンに、いつからこの池にいるのか、とか、どうして人の顔をしてるのか、とか、どうして人の言葉を喋れるのか、とか、いろいろ質問をしてみたのだけど、それはオジサン自身にもわからないみたいだった。気づいた時には池にいて、人の言葉が理解できるようになっていて、喋ることもできたらしい。世の中には不思議なことがあるんだなあ、と僕はそう思った。
「それより今日、学校はどうだった?」
「いつも通りだよ。僕は毎日、いじめられてるから」
「じゃあ君を元気づけるために、歌を歌ってやるよ」
オジサンが、僕の知らない歌を歌い出した。五分くらい、上手でもないおじさんの歌声を黙って聞いた。歌い終えたオジサンに知らない曲だったと伝えると、
「タカシは知らないのか。昔けっこう流行った曲だったんだけどな」
と驚いていた。
その日は一時間くらい、池でオジサンと喋った。謎の生物だけど、オジサンがいい人、じゃない、いい魚だ、ということはわかった。
最初のコメントを投稿しよう!