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気づけばオジサンは、僕が唯一なんでも話せる相手になっていた。
「僕が気兼ねなく話せるのは、オジサンくらいだよ」
「気兼ねなく、なんて、タカシは難しい言葉を知ってるんだな」
でも、オジサンと出会って三か月後くらいのある日、オジサンがこんなことを言ってきたので、僕はもの凄くショックを受けてしまう。
「タカシ、実はな、俺、この池にもういられなくなるかもしれない」
「え? どうして?」
「昨日久しぶりにこの池の前で立ち話をしている人がいたんだが、そいつらの会話によると、この公園はもう少しで取り壊されるらしいんだ」
「じゃあ、この池もなくなっちゃうってこと?」
「そうだな。なんでもここには新しくショッピングモールが建つらしいんだ。だからこの池も埋められてしまうし、俺たちも別の場所に移されるらしい」
「オジサンや、この池の鯉たちは、どこに行っちゃうの?」
「ここから百キロくらい離れたところに鯉ランドってところがあって、まあ名前だけ聞くとロマンチックだが、ようはいろんな鯉のいる大きな公園だな、そこへ二週間後に移されるらしい」
百キロ、という言葉を聞いて僕は頭がくらくらした。そんなに離れてしまっては、もうオジサンと会えなくなってしまう。
「しかも、そんなところへ行ったら、喋る人面魚だってことがばれて、大騒ぎになって、下手したら研究所送りになっちゃうよ」
「そうだよなあ、そんなことになったら、まずいよなあ。でも、どうしようもないんだよなあ」
「せっかく友達になれたのに」
それからの二週間、僕は凄く落ち込みながらも、毎日変わらずにオジサンに会いに行った。給食のあまりだけでなく、お小遣いを使ってスーパーで食パンを買って、いつもより多めに投げてやった。
「タカシ、ありがとうなあ」
「ううん。オジサンに会えなくなる前に、たくさん食パンをあげるよ」
「よし、じゃあ俺もまた、歌を歌ってやるよ」
頼んでもいないし、上手でもないけど、オジサンが歌を歌ってくれることが、なんだか嬉しかった。この歌も、もう少しで聞けなくなるのかなあ、と少し悲しいことを考えた。
休日も、僕はずっと公園の池にいた。あと少しでお別れになるかもしれないから、できるだけオジサンと一緒にいたかったからだ。その間、オジサンはいろんな話しを聞かせてくれたし、歌もたくさん歌ってくれた。
でもあっという間に時間が流れて、とうとう二週間が経ち、明日オジサンが鯉ランドに移動する日が来てしまった。
「寂しいね」
「ああ、俺も寂しいよ」
「どうにか、ならないかなあ?」
「うーん。ちょっと方法を考えてみるよ。まあ、あまり期待はしないでくれ」
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