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知らなかった事実
邸宅迄ギルバルディとカサルが送り届けてくれて、そのまま皇帝への対処なんかを話し合う事になった。
「シアン、いや、エルモア、皇帝は君と子供を守るつもりだ。
君だけででなく、お腹の子供さえも金色の魔法使いとしての庇護下に置くと決められたんだ」
ギルバルディは皇室との繋がりと言う部分で、皇帝がそう決めたのだと教えてくれた。
要は、僕だけの子供って言う部分を、皇室の庇護下に有る子供だと公表したのだ、と。
「そうですよね、未婚のしかも男の僕が子供を」
「そうだな。
しかし、そうせざる負えない事情があったのだからしかたないさ。
私とて軍部にも伝手はあるからな。
先日、ご両親から出た名前が軍部にいたと、カサルが報告して来た。
大体の事情は察したから、安心していい」
そうか、ベオクの事もバレてるのか。
「向こうの子供の方が少し早く生まれそうだな」
え? 子供?
「あ、はは、そう、なんですね。
僕の子供より、早く、そうなんだ」
前に来た手紙。
それに会いに行った時の周りとの会話。
あれは全部、僕の事じゃなかったんだ。
微妙に食い違う会話なのに、認めたくなかった。
一緒にいられるってベオクの言葉を信じて、見て見ないふりをした。
「まさか、知らなかったのか?」
ギルバルディが顔色を変えて、僕がその事実までは知らなかった事を認識した。
「そんな風な手紙が彼の相手から届いていたんですが、彼を好きだったから……。
それに、迎えに来るって言ってたのに……!」
この時初めて僕は涙が溢れた。
「エルモア、君には悪い事をした。
てっきり、全てを知ってるものだと」
「多分、そうだろうとはうすうす感じていましたから」
蓋をしたのは自分だ。
「泣かんでええ、悪いんはアイツや。
軍部と魔法管理部は切っても切れん部署やから、いずれはシアンの事も耳に入るやろうけど、それは全てが整った後や。
皇帝っちゅう後ろ盾がしっかり構えてんのや、安心しい。
ざまぁ見さらせって思っときぃや」
「僕は子供の為に強くなります。
その為にはちゃんと魔法を使えるようにならないと」
カサルの懐かしいイントネーションに救われ、クールだったギルバルディの焦った表情になんとなく安堵して、僕は二股をかけられたことに憤慨しながら復讐を誓った。
魔法の使い方はほぼイメージ力だった。
まぁ、魔力が無いと出来ない事だけど、これってチートとしか言いようが無かった。
本来は魔法陣だの術式だのって手順が必要なのに、僕はこんな風なのっていうくらい適当なイメージで魔法を繰り出すことが出来た。
異世界あるあるだ。
そして、お腹の子が少しずつ育っていくと、お医者さんが魔法でお腹にスペースを作ってくれた。
まさに妊夫って感じのお腹になっていった。
そんな風にして過ごす間、ベオクの情報は全く入って来ることは無かった。
ギルバルディの気遣いだろうと思うけど、敢えて口には出さなかった。
忘れる事は多分難しいけど、気にしないでいる事には慣れた。
両親からもその名前が出る事は無く、定期的に手紙が届いたり僕の好きな食べ物を送ってくれたりした。
相変わらず魔力通信を使わない両親に笑いが出るけど、シアン、って必ず書いてくれていることに安心感があった。
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