幼馴染

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幼馴染

「シアン! お前将来どうするんだよ?」 「ベオク、僕はこのまま高等教育に行って、文官になるよ」  僕をシアンと呼んだベオクは中等教育で同じクラスで今日卒業した、幼馴染と言う腐れ縁の顔立ちも体つきも将来有望な男だった。  金色の髪に赤い瞳が夕日に透けてキラキラと輝いて、今でもそこら中から熱い視線を貰ってる様な奴だった。  春には高等教育へ進む者と軍部へ行くもの、更には商家に弟子入りしたりと進路は様々になる。    異世界あるあるで、産業革命前くらいの文化が発達してる世界だけど、魔法がメインの為そういった文明で十分だったのかもしれない。   「シアンはヒョロいしなぁ。  頭も良いし文官なら納得だな」 「ベオクは軍部に行くの?」 「あぁ、俺は出世したいしな。  親の狡さに辟易してるんだ」  異世界の住人になって十五年、前世の記憶とか常識なんか通用しない事に慣れた。  魔法と言う力が普通に生活に根付いていて、誰もが魔法を多少なりとも使えた。  だけど、生まれた時に僕は自分がその力を持ってない事に気づいていた。 「シアンは魔力無しだから、文官でもかなり頑張らないと難しいだろ?  だから、将来、俺が嫁に貰ってやるよ」  乱暴だけど、頬を赤くしながら僕にプロポーズをしたベオクにやんわりと断りを入れるように諭してみた。 「同性でも結婚は普通だけど、ベオクは後継ぎじゃないか。  ちゃんと子供を産める人を貰いなよ」  決してベオクが嫌いとか言うんじゃなくて、むしろ好きだけど、僕はベオクと釣り合わないと思ってた。  ベオクの家はこの街一体を仕切る豪商で、領主の様な存在だった。  ただ、領主はちゃんと別にいて貴族が治めてるから、ベオクの両親は領主みたいに振る舞う事で、街の人からは傲慢だと揶揄されていた。  一番の原因はそれを放置している本当の領主が、賄賂を貰っている事だった。 「シアンは子供が産めるよ!  卒業する二十歳になったら結婚して!  そして俺の子供を産んでくれ!」  その確信はどこから来るんだよ。 「僕の家じゃ釣り合わないよ。  代筆業をやってるだけで」 「お前んちは凄いじゃないか!  代筆って言っても帳簿から何から全てやってるとこなんて、帝都でもないって!」  帳簿は僕の前世の知識を活用したけど、それ以外は何も出来ていない。  識字率は普通だけど、計算と言う部分があまり出来ない人が多かった。  商人ですら帳簿は覚書みたいな状態で、出入りがぐちゃぐちゃっていう所が多くて、税金を納める時期になるとかなりの苦労をしていた。  会計士みたいな事を始めたのは、僕が仕事を手伝う様になってからだった。 「ベオクだって、親父さんが軍部に行く事は反対してるんじゃなかった?」 「ところがさ、今年の秋ぐらいに第三婦人が弟を生んでくれるんだ。  俺は弟に家督を譲って、軍人として出世するのさ!」  第三婦人、が。  いくら何でも弟とは限らないだろう。 「そ、そうなんだ。  凄いね、おめでとう  でもさ、弟じゃなかったらどうすんだよ」  家までの道すがらに聞くには重い話だった。  僕の常識で第三婦人なんてあり得なかったからだ。  この一夫多妻制の制度に、吐き気すら覚えた。 「決まってるさ。  懐妊後、安定期に入ったからって、診断を受けて性別を確認した。  だから、シアンは俺が貰ってやる!」 「ありがとう、でも僕は一夫一婦制じゃないと無理だから。  ベオクは好きだけど、誰かと共有は出来ない」  子供の戯言と言われても、僕はハッキリと答えを出した。 「なら、絶対! シアンしか嫁にしない!」 「揚げ足を取るようで悪いけど、僕が嫌だって言わなきゃ、第二婦人や第三婦人がいるかもしれなかった、って事だろ」  財力さえあれば、否、無くても何人でも夫人を迎える事は出来る。  ベオクたちはこの世界でそれが常識だったんだから。 「絶対に、シアンしかいらない!  だから嫁になって!  必ず出世して迎えに来るから!」  満更でも無かった僕はこの顔も体格も良い幼馴染に、絆されるだけ絆されて、この時の言葉を受けてしまったんだ。   「分かった」と。
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