○フケンゼンなケンゼン

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「たーいさっ♡」 パチスロ台に向かうボクの後ろから抱きついてきたこの男。 「リョウマさん、ヤメて下さい」 「あ~ッ、また付けッ」 リョウマは所謂同業者。 色白で華奢な体型に背中まである薄茶色の細い髪の毛。帽子を深く被っていて顔が見えず女性だと思っていた時もあった。 え?あぁ、タイサ。 これは彼が勝手につけたボクのあだ名。 詳しくは知らないのだがアニメのキャラクターでどうのって言っていた。 メダルを触っていると指が酷く汚れることが あって、それを避けたいから店に置いてある白い手袋をしているのと雨が苦手で… まぁともかく何かそういうキャラがいるらしい。だからタイサ、なんて呼ばれてる。 自分の呼称なんて気にはしないし多分タイサって大佐なのだろう、何かカッコいいじゃないか、とすら思ってる。 「んでー?タイサの今日の狙いは?どっ、こ、が、オススメ?」 「……御自分で考えて来たんじゃないんですか?それなら」 自分の蓄積された情報を元に自分の立ち回りをすれば良い、と言おうと思ったのに、まるで言わせないとばかりにリョウマがボクの口に手を当てる。 「考えてませーん。ノープランでっ! 駅前行こうかなーって思ってたらタイサが自転車漕いでるの見えたから来たんだもん」 「それなら好きな機種でも打てば良いのではとしか言えませんね」 会社勤めをしてる人、ギャンブルをしない人から見たらボクのような人間は反吐が出る存在だと思う。 年間610万程勝っているのだが税金を納めると大した金額が残らない。 だから、もっと稼ぐ為に努力を惜しまない。 「ダメですよ、飯の種なんで教えません」 「えーーーータイサの意地悪っ!ケチ!」 リョウマさんが更にキツく抱きしめてくる。 (もしかしてなのかな?) なんて考えたこともあるが彼なりのコミュニケーションの取り方なのだと分かった。 「朝から元気ッスね、リョウマ君」 ボクに抱きつくリョウマさんを引き離す大柄な男。ーー確かトワとか呼ばれてる男 リョウマさんは1人ではなく何人もで徒党を組んで幾つかのホールを回っている。 所謂というヤツだ。 ホール側からもボクのような1人で動く人間からも疎まれるはずの存在。 だけどこの人懐こい笑顔と女のコのような風貌のせいか全く疎まれたりなんてしない。 トワが言う 「コイツ、気取ってンスよ、俺等とは格が違うってさ。スーツなんて着て見下してンスわ同じ底辺ニートなのによ?相手にしないで下さいよリョウマ君」 まぁ見下してはいるな、と思う。 1人では勝てない、だらしのない格好できっと部屋も汚いだろう。学歴だってたかが知れてる… 「そーんなことないよ、タイサは恥ずかしがり屋なんだよ。ね?タイサ♡」 ボクはアホらしくなったのと時間が惜しくて何も言わずにその場を去った。 ーー21時。 首を回し背伸びをし席を立つ。 プラス78k。78000円浮いた。 下見をして天井の近い機種、最終の出目、諸々チェックをして駐輪場に向かう。 腹の音が気になるが今日はもうシャワー浴びたら寝てしまおう。食べてすぐ寝てしまっては身体にも良くないから。 そういえばサラダチキンはまだあっただろうか…それと玉子を買って…… 自転車に手をかけたはずのボクの視界が 地面とタイヤを映す。 目の前には伸びた爪とビニールサンダル 「てめえ何なんだよ今朝の態度はよ!気に入らねぇんだよ!リョウマ君が優しいからって調子こいてんじゃねーよ!」 「ト…ワ…さ」 視界がボヤける 指先が冷たい 腰の辺りに温かいものが流れる 悲鳴、恫喝、サイレン ボーナスの音楽が聞こえる
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