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○フケンゼンなケンゼン
朝6時。スマホのアラームが鳴ると同時に
ボクは飛び起きた。
今日は少し遠い現場……昨夜買ってきてそのままのビニール袋からエナドリを出し一気に飲み干す。タバコに火をつけながら冷蔵庫に入れなかったことを少しだけ後悔してグループラインを開く。
ーー「努力ぐらいしろよ無能が」 そう呟いてスーツに身を包んだ。
今日の現場までは自転車で45分。
車でもあれば楽なのだがガソリンは高いし
維持することよりもいっそ、と2年程前に手放した。乗りだしてしまえば自転車も案外快適だった。電アシなんてものも無いしフリマアプリで買った安物だけど渋滞も気にしなくて良いし運動効率のせいかこの2年で12kg程体重も落ちた。
到着すると既に数人が並んでる
「抽選お受けのお客様は会員証をお持ちになってこちらにお並び下さーい」
ボクは鞄から名刺ケースを出し会員証を手にする。並んでるヤツらは皆Tシャツにハーフパンツ、足元はサンダル。
(仕事じゃねぇからかな、それにしてもだらしのない格好だ……寝巻きか?)
ボクはため息をついて空を見上げた。
今日の現場。 ーー現場というのはパチンコ店。あ、いいや店員とか何か作業をする為に来てるわけでは無い。
勝てる見込みのある店の情報を漁り打つ為に来ている。……パチプロ? いいや、プロなんていうには烏滸がましい。同じような輩達は専業、なんて言ってるな。
何だニートじゃん、なんて言わないで欲しい
ボクは仕事という意識を持ってやっている。
ほら、スーツも着てるし靴だって革靴だ。
時計も激安の殿堂で購入したブランドモノ。
鞄も。社会人なのだから身なりに気を使うのは当たり前だし成人なのだから納税もしてる。稀有、な存在らしいけどね。
パチンコ店……未だ6600店舗が存在し過疎な街ですら1店舗はありその遊技人口は809万人にもなると聞く。
だが……まだアングラなイメージはあるだろうか。そう、不健全な業界に思われるだろうか。
だからこそ、だからこそせめて自分は健全で有りたいのがボク。
そこに矛盾は感じない。
ーーそんなことを誰かに語りかけるようにボクは店員に挨拶をし、抽選機を押した。
フケンゼンの中のケンゼンな日々。
これから話すことはそんなボクに訪れたあの夢幻の日々のモノガタリ。
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