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「本物じゃないですけどね。さっき言った元ナマズ、古い友人でして、あれの棲む池に遊びに行こうとしたら身体についた水滴がたまたまあの村に落ちたことがあるかも」
「ほうほう」
「あれが私の元へ来るときもそんなことがあったかも。で、そのときも塩と酒、置かれてたかも」
「あー、それはあやしいですね」
「やっぱり?もーやだぁ。じゃあ私のせいじゃん。やらかしてるじゃん私」
「でも人々はそれで助かったわけですから」
わあ、と頭を抱えた龍を男は慰めます。
「とりあえずその方法で今回も村に雨を降らせてあげたらいいんじゃないですか?本当に困っているみたいだし」
「うーん」
龍が首をひねります。
「でもそんなことしたらキツめの日照りのたびにあなたみたいな犠牲者が出ちゃいません?」
「確かにそれはマズイですね」
「お酒と塩でも参ってるのに、生贄とかもう、その発想が私、怖くて。根拠もないのに私がそれを喜ぶって思い込みで捧げ物してるってことでしょ?異様ですよ」
「みんながみんなそうじゃないんですけどね。昔からコミュニティにはそういう物語を作るのが上手い人がいるものなんですよ。龍神様の怒りじゃ!って。そして危機的状況であればあるほど、多くの人がその物語にすがってしまう」
「何故でしょう」
「信じたいんでしょうね。不安だから」
「ああ、うん。わかりますよ、ひとりで不安を抱えるのはしんどいものです。誰かの物語に乗ればひとりじゃないですもんね。わかる。それはわかりますけどねえ」
龍と男は顔を見合わせました。
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