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「ともかく生贄とかよくないですし。村人が様子を見に来る前にあなたは逃げた方がいいですね。あ、そうだ。その縄、カミツキガメに切ってもらいましょうか」
「カミツキガメもこの池にいるんですか?」
「数年前にふらっと現れて。気性は荒いけどあの牙ならいけるんじゃないかなあ」
「どれくらいの荒さなんでしょう。その、指とか噛まないように加減はしてもらえそうですかね」
「気をつけるようお願いはしますけど、なんせカメですし。器用さに限界はあるので、保証はでき、ない、かも」
「うーん……」
しばしの沈黙。
「ちょっと怖いな」
「ですよねぇ」
「あの、あなたの爪で縄を引っ掻いてもらうっていうのは?」
「それは私が怖いなぁ、間違えて当たったらカミツキガメより致命傷になっちゃうし」
「そうですかぁ」
「すいません、お役に立てないで」
「いえいえ、そんな」
再びの沈黙。
「あの、縄をどうするかはともかく、もうしばらくあなたとお話ししたいんですが、いかがでしょう。実はとても楽しくて」
「喜んで。村人も明日までは来ないでしょうし。私もあなたと話せて嬉しいです」
龍と男はふふっと笑い合います。
「まあでも、雨、降るといいですね」
「本当ですね」
「いつですかねえ」
「わかりませんねえ」
抜けるような青空の下、二人はのんびりうなずき合いました。
〈了〉
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