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あれ?
えーっと、私がプロポーズされるかも?って思ったのは勘違い?
―――否。
確かにBGMが流れた時、隆はポケットに手をやった。そして、スタッフにも目配せしていたように見えた。
どうやら隣の若造にシチュエーションを奪われたようだ。
私は一瞬で状況を理解した。
そして、目の前で半べそで拍手をしている隆を見ると、おかしくておかしくて、笑いを堪えるのに必死だった。
それから直ぐにスタッフが隣の席にケーキを運んできて、二人は幸せそうにケーキを食べさせ合っている。
隆はというと、その光景を微笑みながら見ている。
自分のプランが台無しにされたのに、怒るでも嘆くでもなく、あんな優しい顔ができるなんて、お人好しにも程がある。
まぁ、そこが隆の良い所なんだけど…
「夜景綺麗だったね…ご馳走様」
「うん…」
隆の心はここにあらずだ。
私、そんなに形式は気にしないんだけどなー…
「ね、いつもの居酒屋寄って帰らない?なんか、飲み足りないし…」
「うーん…」
隆は何か悩んでいるようだ。
プロポーズによさそうなロケーションを頭の中で検索中なのだろう。
「お座敷でさ、足伸ばして飲も?ほらっ!」
私は隆の腕に自分の腕を絡めて、地下鉄駅へと突き進んだ。
「ちょっと、綾?」
「いいから、いいから!」
5分程歩いて駅の改札口の前まで来たが、隆は浮かない表情だ。
あぁ、もう面倒くさい男だな…
私は短気なのだ。
「今日はもう十分いい思いさせてもらったよ…ありがとう…」
私は隆の手を取って、構内の端に移動して、隆の顔をじっと見つめた。
隆は「え?」と不思議そうな表情を浮かべる。
私は決心して隆の両手を握り、その手にぎゅっと力を込めた。
「私たちさ、もうつきあって三年だし、そろそろ結婚しよ――・・・」
私がそこまで言おうとすると、急に隆の顔が近づいてきて口を塞がれた。
こんな公の場でのキスなんて、今までされたことなかったし、完全に不意打ちで、私は何が起こったのか理解が追い付かなかった。
隆はゆっくり離れて、真剣な熱のこもった瞳で私を見つめた。
「それは、俺に言わせてよ…」
揺るぎない熱い眼差しに、私の心臓は高鳴った。
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