これからもふたりで

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 綾が呆然として、俺を見つめている。  おおおおお俺、今、こんな公共の場で、チューしちゃった…  でも、こんな所で綾に言わせるわけにいかないだろー?  俺にもカッコつけさせろー!!!  うわぁ…何か周りから視線感じるわー…  でも、もうこの状況は言うしかないじゃーん…  あ…指輪…    俺が、意を決してポケットから指輪ケースを取り出し、綾の目の前に出そうとした時、俺たちの横を通り過ぎようとしたアロハな服装の厚化粧のマダム集団の一人が「あらぁ~?隆ちゃんじゃなーい?ねぇ、鳴海さん…」と言った。  その声を聞いて、俺の顔から血の気が引いた。  「あら、隆?あんた、こんなとこで何やってんの?」  厚化粧のマダムの一人が俺らに近づいてきた。  あ…急に頭痛が…  「か…母さんこそ…」  「今日はアロハの発表会だったの~…言ってなかった?」  厚化粧の母はそう言って、手と腰をくねらせた。  「あ…あぁ、そうだっけ…」と、適当な相槌を打って、この場からどう脱却するかを考えていると、綾が「ご無沙汰しております…」と厚化粧の母に挨拶した。  「あら、綾さん久しぶりね…おめかしして、デートだったの?可愛いワンピース ―――…って、あんた!まさか!?」    厚化粧の母は、引っ込めるのを忘れた俺の手の中のものに気付いて、俺に食いついてきた。    「あんた!まさか、こんなところでプロポーズしようとしてるんじゃないでしょうね?え?いくら付き合いが長いって言ったって、もっと、ムードってもんがあるでしょう…夜景の見えるレストランとかでちゃんとしなさいよ!」と、俺にコソコソと説教する。だが、ちっともコソコソできていない。  なので、アロハなマダムたちが『え?プロポーズの最中なの?』『ここで?』『若いっていいわね~』などと勝手なことを言ってコソコソ盛り上がっている。あくまでも、コソコソしているつもりで。  今日は厄日なのか?  こんなところで、こんな状況で母と出くわすなんて、どんだけの確立だよ。  「もうわかったから、母さん…ほら、お仲間待たせちゃ悪いよ…帰ってくれよ…」  俺は、もう逃げだしたかった。  眉間をつまんで「頼むから…」と、母に懇願した。  「そうね、邪魔して悪かったわね…それじゃ、綾さん…」  「はい…お気をつけて…」  去り行く母達ご一行を二人で見送ると、母がまた振り返って戻ってきた。  「こんな出来損ないの息子だけど、綾さん、これからもよろしくね…」    そう言った母の厚化粧の奥の瞳が潤んでいた。  「こちらこそ、これからもよろしくお願いします。」と綾も瞳を潤ませて、深々と母へ一礼した。   なんだよ母さん、泣くなよ…綾も…  肝心のプロポーズまだだからさぁ…  
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