これからもふたりで

9/10
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 「隆のお母さん、アロハやってたんだね…」  「うん…なんか、ゴメン…」  「ううん、ビックリしたけど…」  「あー…俺、かっこ悪い…」  隆は拗ねた顔で、指輪ケースをポケットにしまおうとした。  「あ…ねぇ…」と、私は隆の腕をつかんだ。    「ん?」  「それ、頂戴。」  「え?今?…仕切り直しさせてよ…」  「えー…今がいい…」  「えー…だって、俺だってカッコつけたい…」  「十分カッコ良かったよ。早く私を 綾にさせてよ…」  「あー…またそうやって・・・俺に言わせてって言ってるのに…」  「だから、早く言って?ね?」    隆が口を尖らせた。  私は「ほら早く~」と、隆を(あお)った。  隆は私に背を向けてため息を一つ吐いた。  それから、私の目の前に(ひざまず)いて「俺と結婚してください。綾を一生大切にします。」と真剣な表情で、私に指輪ケースをパカっと開けて差し出した。    されるとわかっているのに、なんなら催促したのに、隆の真っすぐで揺るぎない瞳が嬉しくて、涙が溢れた。 「私も…隆を大切にします。」    構内を往来する人々が、足を止めて拍手と口笛で私たちを祝福してくれた。  その拍手に包まれながら、隆は私の左の薬指に、星のように煌めくダイヤの指輪をつけてくれた。  そして、隆はあちこちにお辞儀をしてから、私の手を取って逃げるように駅を飛び出した。  夜風がヒュルリと冷たく、恥ずかしさのあまりに火照っていた体に心地よかった。    「あー恥ずかしかった……帰ろうか…」と、隆が優しく微笑んだ。  「疲れたでしょ?」と私は繋いだ隆の手を反対の手でポンポンと軽く叩いた。  「そうだね…ハプニングだらけの一日だったなぁ…」  「ふふふ…お疲れ様。じゃあ、帰って一緒にお風呂入ろっか…」  「え?…うん!」  私の提案に、隆が嬉しそうな顔をする。  何度となく一緒に入っているのに、こんなに嬉しそうな顔ができるなんて可愛いやつ…  「早く帰ろ!今すぐ帰ろう…ヘイッ!タクシー!」  「エロ隆…」  私はくすぐったい気持ちで、左手に光る指輪と、タクシーを停めることに必死な隆の横顔を交互に眺めた。そして、小さな声で「これからもよろしくね、旦那さん」と呟いた。      
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!