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「隆のお母さん、アロハやってたんだね…」
「うん…なんか、ゴメン…」
「ううん、ビックリしたけど…」
「あー…俺、かっこ悪い…」
隆は拗ねた顔で、指輪ケースをポケットにしまおうとした。
「あ…ねぇ…」と、私は隆の腕をつかんだ。
「ん?」
「それ、頂戴。」
「え?今?…仕切り直しさせてよ…」
「えー…今がいい…」
「えー…だって、俺だってカッコつけたい…」
「十分カッコ良かったよ。早く私を鳴海 綾にさせてよ…」
「あー…またそうやって・・・俺に言わせてって言ってるのに…」
「だから、早く言って?ね?」
隆が口を尖らせた。
私は「ほら早く~」と、隆を煽った。
隆は私に背を向けてため息を一つ吐いた。
それから、私の目の前に跪いて「俺と結婚してください。綾を一生大切にします。」と真剣な表情で、私に指輪ケースをパカっと開けて差し出した。
されるとわかっているのに、なんなら催促したのに、隆の真っすぐで揺るぎない瞳が嬉しくて、涙が溢れた。
「私も…隆を大切にします。」
構内を往来する人々が、足を止めて拍手と口笛で私たちを祝福してくれた。
その拍手に包まれながら、隆は私の左の薬指に、星のように煌めくダイヤの指輪をつけてくれた。
そして、隆はあちこちにお辞儀をしてから、私の手を取って逃げるように駅を飛び出した。
夜風がヒュルリと冷たく、恥ずかしさのあまりに火照っていた体に心地よかった。
「あー恥ずかしかった……帰ろうか…」と、隆が優しく微笑んだ。
「疲れたでしょ?」と私は繋いだ隆の手を反対の手でポンポンと軽く叩いた。
「そうだね…ハプニングだらけの一日だったなぁ…」
「ふふふ…お疲れ様。じゃあ、帰って一緒にお風呂入ろっか…」
「え?…うん!」
私の提案に、隆が嬉しそうな顔をする。
何度となく一緒に入っているのに、こんなに嬉しそうな顔ができるなんて可愛いやつ…
「早く帰ろ!今すぐ帰ろう…ヘイッ!タクシー!」
「エロ隆…」
私はくすぐったい気持ちで、左手に光る指輪と、タクシーを停めることに必死な隆の横顔を交互に眺めた。そして、小さな声で「これからもよろしくね、旦那さん」と呟いた。
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