太陽に吐息

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 パッと目を開ける。再び真っ白な天井が俺の目に飛び込んでくる。空は真っ青で雲一つない快晴だ。雨が降る気配さえ感じさせないほどの快晴。  雨が降れば、電車に乗る理由になるのに。そうしたらまた彼女に会った時に、雨が降ってるからと言えるのに。晴れていたら、電車に乗れない。彼女にも会うことができない。 「嫌……」  また気づかぬうちに言葉が漏れていた。俺の本音がぽとりと口から零れ落ちていく。そこで気づいた。いや、気づこうとしていなかったけれど気づかなければいけなくなってしまったのだろう。  俺は体を起こすと、また太陽を睨んだ。今では憎くなってしまった太陽をギッと睨む。きっと俺は、彼女が気になっているのだ。まだ出会って一日、それも話したのは30分も満たない時間なのに。そのわずかな時間で、俺は彼女に好意を持った。だからこんなにも雨を願っているのだ。 「チョロ……」  呆れて笑ってしまう。のそりとベッドから足を床に付けると、ハンガーにかかった制服に袖を通した。  別に恋をしやすい体質じゃない。それなのに彼女のことが雨を願うまでに気になるのはきっと、そういうことだ。恋はするものではなく、落ちるものだというフレーズを前に聞いたことがある。確かに。恋は意図的にしようと思うのではなく、気づいたら落ちているのだ。今の俺みたいに。  部屋を出る前にもう一度だけ窓の外を見る。変わらない快晴。澄み渡った青空。 「降れよ、梅雨なんだから」  そう言葉を吐き捨てて、俺は部屋を後にした。言葉の虚しさだけが部屋に残る。
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