太陽に吐息

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 痴漢や盗撮を疑われないように両手でつり革を持ち、外の景色を眺めた。自分で言うのもアレだけど、背が高いお陰で気分は悪くはならない。背が低い人は大変だな、といつも上から見ていて思う。背が低い女性とか、いつも死にそうになっていて、その度に何かしてあげたいと思うけど、特に何もできずに最寄り駅まで着いてしまう。そんな自分が不甲斐ない。  こんなのに毎朝乗っていたらそりゃあ気分を悪くして、非常停止ボタンが押されるわな。満員電車に乗る度にそう思う。よくSNSで遅延についてトレンドに上がっていて迷惑だって言っている人も多いけれど、これなら仕方がないと俺は思ってしまう。梅雨の時期は毎日これか、と負の息を吐いた。  ふと下を見る。電車に揺られた女性が必死につり革に捕まりながら立っていた。しかし明らかに顔色が悪いのが見受けられる。 「大丈夫ですか?」  彼女が顔を上げる。消え入りそうな声で「大丈夫です……」と言った。でも明らかに大丈夫じゃない。元カノから言われた言葉をふと思い出した。「女の大丈夫は大丈夫じゃない」と。これは女に限った話じゃなくて、男にも当てはまるなとそれを聞いた時思ったのをはっきりと覚えている。 『次は〇〇──』  車掌のアナウンスで、この駅で降りる人たちがみな扉を向き始めた。降りない乗客はそれを察して通り道を作ろうと体を動かす。ゲームの連携プレーを見ているような気分になった。電車が段々とスピードを弱める。最寄り駅まであと数駅。 「次の駅で降りましょう。顔色悪いです」  電車が停まった。扉が開く。どっと人が外に出る。俺は彼女と一緒に流れに乗って外に出た。近くのベンチにやって来ると、彼女は疲れたように腰掛ける。真っ新なスーツとヒールが新社会人を連想させた。同じ目線で見ると、彼女の顔色の悪さがより分かった。 「俺、水買ってきます」 「あ、いや、大丈夫です」
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