太陽に吐息

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◇  翌朝は澄み渡った空が広がっていた。俺は窓越しに燦々と輝く太陽を見て、昨日の雨が嘘だったかのような錯覚を覚える。昨日の彼女との出来事は全て夢だったのではないか。まだ起床したばかりで寝ぼけているというのもあるのだろう。ぼけぼけした頭でしばらく太陽を睨む。 「雨じゃないんだ……」  声を発して数秒後に気づいた。「え?」と信じられないといったニュアンスで口にする。  ──今、俺なんて言った?  そこには梅雨の時期なのに雨が降っていないことに対して喜ぶのではなく、寂しく思っている自分がいた。溜息を吐いている自分がいた。  俺は首を傾げると、太陽に見透かされている気持ちになって顔を背けた。背後に太陽の暑さを感じる。その暑さに鬱陶しさを覚える自分がいて、さらに困惑した。頭に浮かぶのは笑った彼女の姿だった。昨日初めて出会って、ちょっと会話しただけの新社会人の彼女──神戸茉里奈の姿が。 「なんで?」  心に留めておけず、声に出してみた。それでも泡になって消えたように分からなくて、俺はベッドに横たわる。もう支度を始めないといけないのに、妙に体が怠い。熱でもあるのだろうかと思って、手を額に当ててみる。熱があるようには思えない。ぼーっと真っ白な天井を見上げながら、息を吐く。自分を理解できなかった。  雨が嫌いだから、梅雨も嫌いなのに。いつもなら晴れていたら大好きなロードバイクで学校に行けるから喜ぶのに。  考えるのに疲れてしまって、一度何もかもをシャットアウトする為に目をつぶった。真っ暗闇。そこに浮かぶのは快活な笑顔を浮かべるよく知らない女性。昨日知り合って、もう出会うこともないだろう彼女。
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