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隣の青年が踊りながら、小声で囁いてきた。
「君、踊りうまいね、何かやっていたの?」
「中学までバレエを……」
「バレエかあ、なるほどね。さっきのターン、雨空へ飛び立つ白鳥みたいで綺麗だった」
「なんで私を」
「今にもオバケでも出そうな顔していたらかね、ヤバいなあと思って」
「そんな顔してました?」
「わかるんだよ、ここにいる連中もみんなそうだったから。よし次、パドルステップを決めてみよう。足元に集中して」
水溜りに軽快なステップが連なる。パドブレ・クーリュの細かい足踏みに似ている。
ピチャピチャと水の芽がたくさん吹き出して、路面が雨の草原に彩られる。
バレエ舞台に上がったときの楽しかった時間を思い出す。
「どうして雨の中で……」
「『雨に唄えば』っていう昔のミュージカル映画知ってる? 『雨よ降れ、笑顔で受けよう』っていう歌詞が今の僕らにぴったりだったから」
「あなたも雨の中にいるの?」
「そう、だから僕らみたいな子を見つけたら、笑顔にさせたくてね」
「私……もう高校三年なんだけど、進路が決まらなくて。どんどん不安が募って、灰色の雨の中を彷徨っているような気持ちだけが纏わりついていた」
「大丈夫、君はひとりじゃない。やりたいことを見つけて心を弾ませれば、それを応援してくれる仲間がいる。その雨に笑いかけてごらん? ほら、僕らみたいに一緒に踊る奴がいるだろう?」
ダンサーたちは傘を畳むと、一斉に柄を持ってギターを奏でるような仕草で踊り出す。
左右に振り向くと、傘をさしているのは私だけになっていた。
「さあ、アンブレラ、君がプリマだ。自由に踊ってみてごらん、この舞台は君のものだ」
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