42人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
五月雨が私の持つ傘を叩き、ボトボトと音を立てる。
その音は徐々に胸に染み入り、服の内側に濡れた雑巾を巻きつけられたような感覚がした。
井の頭通りの歩道を歩いていると、聞こえてくるのは車が路面の水を撒き散らす無味な音だけ。
ずっと歩いていたら、いつの間にか靴はぐしょぐしょになり、スカートの裾は斑模様の燻んだシミに染まっていた。
まるで灰色に薄汚れた醜いアヒルの子。
「家に帰りたくない」そんな気持ちばかり、頭をよぎる。
家に帰れば、また進路はどうする、模擬試験の結果がどうとうるさく言ってくる。
そんなのわかってる、私は親と違って渋谷の一等地に家が持てるほど優秀ではないし、将来のことなんて何も考えられない。
何もかもが面倒くさくなった。
いっそ私なんかいなくなれば、みんな楽なんだろうな。
代々木公園の交差点で横断歩道を渡ろうとしたところで、急ブレーキの甲高い音が耳をつんざき、思わず足を止めた。
車道に目をやるとすぐ横に車が止まっていて、中にいたドライバーが恐ろしい形相で私を睨んでいた。
慌てて一礼して、早足に横断歩道を渡り切る。赤信号だったことに気づいていなかった。
湿って重たくなった靴を少しずつ前に引きずりながら公園の横を歩いていると、軽快な音楽が雑木林の隙間から聞こえてきた。
こんな雨の中で何かイベントでもやっているのかな——
どこか懐かしさを感じるその音に惹かれ、私は無意識に公園の入口へと足を向けた。
遊歩道をしばらく歩くと広場があり、数人の若者が集まっているのが見えた。
近づいて傘をさす人だかりの合間から、その先にあるものを覗いてみた。
え、何してるの?
そんな言葉が飛び出しそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!