プロローグ

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 教室の前後の黒板には、色とりどりのチョークで璃空翔の悪口が書いてあった。豚だ、気持ち悪いなど、お決まりの稚拙な表現が多い。これも副島の仕業だが、もはや心が動じることはなかった。  天井についたエアコンのルーバーがスィング軌道しながら、ときおり冷たい風を璃空翔に送ってくる。登校時の暑さと机を運んだ疲れが癒やされ、心地よくなって璃空翔の意識が薄らぐ。  璃空翔が教室に着いてから五分ぐらい後に、蒲生憲章(がもうのりあき)と迫田雄介(ゆうすけ)が教室に入ってきた。蒲生は所属する陸上部で、秋の都内学年別対抗戦の走り幅跳びで三位に入賞した。成績も学年のトップテンに入る、文武両道のいわゆる一軍メンバーだ。片や迫田はレスリング部に所属して、昨年のインターハイ予選で一年ながら四位の好成績を収めた。二人は同じ中学の出身で、何かと仲がいい。  学校カースト的には典型的な二軍メンバーの璃空翔は、本来二人とは縁遠い存在であったが、二年に成って急に悪い意味で近くなった。憲章が璃空翔を、いじめの対象にしたからだ。  最初は璃空翔の靴や上履きが隠されたり、SNSの掲示板に万引きをしたなど、ありもしないことが書き込まれたりした。璃空翔はこれらに一々抗議するほど気が強くないから、靴を教室まで持ち込んだり、上履きを家に持ち帰るなど、できる限りの自衛をした。すると最近は、宗直が二人に命令されて、この朝のルーチンを続けている。
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