プロローグ

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 なぜ憲章が璃空翔をいじめの対象にしたかはよく分からない。璃空翔たちは一年生の時から同じクラスだが、正直言って憲章はまったく別の世界の人間だった。ときおり憲章が近くの人間をいじめの対象にしているのは見聞きしていたが、それに対して璃空翔が何かアクションを起こしたことはない。強いてあげれば、順番が回ってきたという感じだ。  ホームルームの時間に成り、担任の須藤恭二(きょうじ)が、教室に入ってきた。  須藤はこの学校の卒業生で、京都大学卒業を鼻に掛けるプライドの高い教師だ。担当教科は数学で、基礎問題は無視してハイレベルな難問ばかり解かす。他の先生と比べると、嫌みなタイプに分類されるだろう。細くてすぐ脂でぺしゃんこになる髪と、細めの顔に似合ったフレームレスの眼鏡が特徴だ。  いつもは須藤が来る前に、前と後ろの黒板に書かれた自分に対する悪口を、璃空翔自身がホームルームが始まる前に消しているのだが、今朝は夏の疲れか非常にだるくて、つい消し忘れてしまった。 「この幼稚ないたずらをしたのは誰だ」  須藤の冷たい声が教室内に響く。みんな関わり合いに成るのを恐れて、何も言わなかった。被害者である璃空翔も、前に靴を隠されたとき、蒲生たちの仕業だと須藤に訴えたが、ちゃんと証拠を掴んでから人を疑えと逆に説教されたので、犯人を訊かれても璃空翔は沈黙を守った。
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