プロローグ

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プロローグ

 七月――鬱陶しい梅雨が終わって、夏休みに入るまでのこの期間が、帰宅部の尾上璃空翔(りくと)にとって一年を通じて最も汗をかく季節だ。快晴の陽射しを浴びて、校庭に立ち並ぶ桜の葉はキラキラと煌めき、グランドではインターハイ予選に臨む運動部の部員たちが、朝練で汗を流している。  世の中全てが鮮やかな彩りに染まって、眼の前に映る者たちは世界に向かってエネルギーを放射し続けている。自信に溢れてる者、望む成果を得られなくて落ち込んでる者、今という時間を刹那的に生きてる者など、人によってその様子を様々だが、大人になるまでの時間を楽しむ気持ちは皆同じだ。  ところが、せっかく夏の明るい陽射しを受けているのに、心は暗い箱に閉じ込めたままの者も希にいる。教室に向かう階段を、ゼイゼイ息を吐きながら重い足取りで登っている璃空翔は、そんな希な高校生の一人だ。  璃空翔はとにかく身体が重い。二年生に成ってから、過度なストレスが原因で急に太り始めたからだ。気をつけて食べ過ぎないようにしているのだが、空気を吸うだけで太っていく感じだ。数字で見ても、一年のときは六二キロしかなかった体重が、今では八八キロもあるのだから笑うしかない。身長は一七三センチだから、「肉塊」と呼ばれても「はいそうです」と、答えてしまいそうだ。
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