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フワフワとした髪は柔らかく、触れると心地よい。
今は閉じている瞼に隠れている瞳は、春の空のように透き通った清らかな青だ。
小さな顔の輪郭の中央に位置する鼻は形も良く、その下にある小さな唇はとにかく愛らしい。
眠るティアリーゼの頬を撫で、ストラは思う。
(美しく育った……可愛い私のティアリーゼ。こうして触れられる日が来るとは思ってもいなかったな)
神は人間の祈りに乗せられた聖霊力がなければ大したことは出来ない。
世を変える力があれども、人間の信仰がなければ自分の宮から出ることすら出来ないのだ。
戦時ならばともかく、平時には存在すら忘れられていそうな軍神ストラ。
闘神など、戦いそのものに特化した神ならばまた別の場面でも祈りを捧げられることもあるだろう。
だが、ストラはどちらかというと戦略の神。軍師としての役割が大きい。
大きな戦など久しくないため、ストラは自分の宮へ引きこもっていることしか出来なかった。
状況が変わったのは十二年前。
一人の人間から、多大な聖霊力が祈りに乗せられ送られてきたのだ。
神官ではない、つたない祈り。
だが、その聖霊力は明るく柔らかでただただ心地良い。
たった五歳の幼子が自分一柱だけに全ての聖霊力を送ってくれたのだ。
一人だけとはいえ、その娘の聖霊力は多く純粋な力に溢れている。
毎日捧げられる祈りのおかげで、ストラは神々の国を自由に動けるようになった。
いくら表面上は公平であるべき神とはいえ、そのような娘を寵愛するなという方が無理なこと。
立場故に神官にはなってもらえなかったが、この愛しい娘をずっと見守っていようと思っていた。
だが、つい先日状況が一変する。
見守っていた娘――ティアリーゼに死の危機が訪れたのだ。
不条理な理由で一方的に湖に落とされる様子を見て、助けねばと思った。
一人の人間にあまり干渉してはいけないと神々の間では決められている。
だが、そんな決まり事など関係ないと迷うことなく体が動いていた。
愛しい娘が、たった十七という若さで命の灯を消してしまう。
許せることではない。
ただ、そうして助けても今までのように自分に祈りを捧げてくれればいいと……それで十分だと思っていた。
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