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「お前一人で行動するのが少し心配だったのでな」
力もあるし頭も良いが、どこか抜けていて今のように絡まれてしまうと思った。
だそうだ。
今まさに絡まれてしまった身としては反論の余地もない。
「それに……」
つい……と、視線が流れストラはティアリーゼの肩に乗るピューラを見た。
「今朝、お前が気落ちしていると“それ”が伝えてきたのでな」
「え? ピューラが?」
今朝と言うことはフリッツのことを思い出していたときだろうか?
確かにあのときピューラは心配そうにしていた。
「そう、ですか……」
大丈夫だと言ったのに、と思う反面。
愛らしい小鳥の気遣いが素直に嬉しくもあった。
(……ん? ということは、ストラ様は私が気落ちしていると思って来てくれた、と?)
言葉をそのまま受け取るとそういうことになる。
だが、いずれ妻になる相手だとしても今は一介の神官に過ぎない。
そんな相手のためにわざわざ神である彼が来てくれるものなのだろうか?
「その……もしかして他にも何かご用事が? よろしければ私もお手伝い致しますが?」
自分の心配だけでストラが平民に扮してまで人間の地に下りてくるはずがない。
他にも用事があるに決まっている。
そう判断しての言葉だったのだが……。
「何を言っている? 他に用事など無いが?」
「え? ですがその……だとするとストラ様が来てくださったのは私を心配したから、という理由だけということに……」
「だから、そうだと言っている」
「へ?」
まさか本当に自分への心配だけとは思わず、驚きの心地で端麗な顔を見上げた。
すると赤茶の目で真っ直ぐティアリーゼを見下ろしていたストラと目が合う。
(ああ、こんな近くにストラさまがっ! 平民姿でも溢れ出る美しさ……尊い……)
尊すぎて今すぐ手を組み祈りを捧げたくなってくる。
だが、それよりも先にストラの手が伸ばされ、長い指がティアリーゼの髪を耳に掛けた。
そのまま顎のラインをなぞり、軽く先端を掴まれ固定されてしまう。
逸らせない視線に、ティアリーゼの胸の鼓動が早まった。
「妻となる女の心配をしてはいけないか? これでも私はよき夫となるつもりはあるのだぞ?」
「お、夫⁉」
妻として仕える覚悟はしていたが、ストラを夫とする覚悟はしていなかった。
(そ、そうよね。妻になるということはストラ様が夫になるということですもの)
「ストラ様が私の夫……っ!」
実感が湧かず、確認するように声に出してみて失敗した。
じわじわとその事実を理解し、なんとも表現し難い恥ずかしさで顔に熱が集中する。
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