神の助力

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 赤くなった顔を見られたくないのに、固定された頭は動かせない。  恥ずかしいのに逸らせなくて、涙まで浮かんできた。 「……何故泣く?」 「分かりません。でもその……ただ、恥ずかしくて」  ここまで心を乱されるようなことは幼い頃以来だ。  どうしていいか分からず、胸の鼓動を抑えることも出来ない。  顔を背けたいから離してほしいと思うのに、触れていてほしいとも思ってしまう。  自身の矛盾した思いに、ティアリーゼは困惑した。 「恥ずかしい、か……。恥じらうお前は可愛いが、いつまでもその様な状態では手が出せないではないか」 「え?」  少し呆れ気味にため息を吐いたストラは、その整った顔をティアリーゼに近付ける。  何を? と思うと同時に、目尻の涙を吸い取る様に彼の唇が触れた。  瞬間、ティアリーゼの全てが停止する。  体も、思考も、呼吸さえも止まり、先程までうるさいほどに鳴っていた心音すら止まってしまった様に感じた。 「妻となったら、この可愛らしい唇にも口付けしたいのだがな?」  あまり表情が動かないストラだが、そう口にした彼は楽しそうに笑みを浮かべている。  少し意地悪そうに見えるのはティアリーゼの気のせいだろうか?  硬直してしまったティアリーゼから手を離すと、ストラは感情の読み取れない表情に戻り「さて」と手を差し出す。 「冤罪を晴らすのだったな。私も共に行こう」  何故それを知っているのかと一瞬思ったが、ピューラを通じてこちらの状況を把握している様子だったことを思い出した。 (一緒に行って下さるの?……いいのかしら)  何とか呼吸の仕方を取り戻し思う。  冤罪を晴らすのは自分がやるべきことだ。  ストラの手を借りる必要はない。  だから大丈夫だと、そう言えばいいのだが――。 「はい、ありがとうございます」  ティアリーゼは礼を言って、硬く大きな手に自らの手を乗せた。  ストラはずっと仕えたいと思っていた推しの神。  聖女となって妻として仕えると決めてからも、あくまで仕える相手。  だから、未来の夫として手助けしてくれるという彼には戸惑いが大きい。  なのに、ストラの手を借りる必要はないと思う反面、心強いと思ってしまった。  共に来てくれるという言葉を……嬉しいと思ってしまった。  この気持ちは何なのだろう。  敬愛、信頼、崇拝。  どれも近いようで全く違う。 (そう、もっと近しい……親しみのようなもの)  トクン、トクンと優しく脈打つ鼓動に身を任せるように、ティアリーゼはストラと共に歩き出した。
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