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そんな希少な毒をメラニーはどうやって入手したのかと疑問は浮かぶが、今はエリーの治療が先だ。
「《エルシュの復讐》は眠りを誘い、目覚めを阻害する毒。神術で毒を浄化しながら風の神の眷属・芽吹きの女神ワーフへ祈って目覚めさせるのが一番ね」
治療法を定め、ティアリーゼは一度フロント氏に目を向ける。
「治療を始めようと思います」
「はい、お願いします」
神妙な顔に頷きで返し、エリーに向き直る前にストラを見る。
笑みを浮かべるわけでもなく、ただ頷くストラ。
だが、ティアリーゼにはそれで十分だった。
ストラが見守ってくれている。
それだけで初めての治療に対する不安が解けていった。
今度こそエリーに向き直り、彼女の安らかな寝顔を見る。
祈りと神術を同時に行った事は無い。
上手くできるか少々不安はあるが、その不安もストラが解かしてくれた。
(大丈夫、できるわ)
自分に言い聞かせ、軽く深呼吸をする。
そして祈りと術に集中した。
まずは毒の浄化。
聖霊力を流し込み、血流の流れを利用して毒素を集め燃やすイメージだ。
少しづつ慎重に流し込み、毒素を集めていく。
(あとは、燃やしながら祈りを……)
燃やすイメージを明確にしながら聖霊力を送り込む。
中々思うように燃えてくれず少し焦ったが、ジリジリと毒素が燃えて消えていく感覚がした。
(……風の神の眷属・芽吹きの女神ワーフよ。かの者に目覚めを)
心で願い、祈る。
神術に使っている聖霊力を祈りにも乗せ、二つのことを同時に行った。
祈りは毎日行っているから問題なさそうだったが、燃やして浄化するのに手間取る。
貴族は魔術を扱うものだからと言われ、あまり神術を使う機会がなかったことも原因かもしれない。
それでも集中し、少しずつ燃やしていく。
かなりの時間が経ったがなんとか毒素を消し去ることが出来た。
同時に芽吹きの女神ワーフからの返礼である祝福が降り注ぐ。
祝福は終わりの証。
治療が完了したとみて聖霊力を流し込むのを止めると、エリーの瞼がゆっくり開いた。
「あ、れ……? 私……?」
「ああ……良かった」
茶色の目が見え、唇が動く。
声を聞いたことでちゃんと治療できたと実感すると、途端に力が抜けた。
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