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準備と変化
丸一日ほど休むと、フロント氏とエリーから話がしたいと食事の誘いが来た。
ティアリーゼも話がしたいのは同じだったため、すぐに承諾の返事をする。
ストラも同席した食事では、治療のお礼を改めて伝えられたりと穏やかな時間を過ごし、食後のお茶の時間に本題の話を始めた。
「エリーからあらかたの事情は聞きました」
神妙な面持ちで話し始めたフロント氏は、そのままエリーの話を簡単に話してくれる。
ティアリーゼの予測通り、エリーはメラニーに無理矢理毒を飲ませられたそうだ。
解毒薬は手元にないが、城にはあるはずだから自分がフリッツの婚約者になれたら貰って飲ませてやる、と。
メラニーはそのままエリーが毒を飲んだ後の計画を楽し気に話して聞かせたらしく、詳細まで知らされたことでメラニーが自分を助ける気は毛頭ないと気付いたらしい。
いくら仕えている令嬢の命令とはいえ、命に係わる毒など飲みたいわけがない。
だが、ムバイエ家の使用人達にも取り押さえられ無理矢理飲まされてしまったのだそうだ。
「そう……辛かったわね」
ティアリーゼは痛ましい思いをその一言に乗せ、飲んでいたティーカップを静かに置いた。
メラニーがそういう人物だと分かってはいたが、自分の側仕えにすらそのような仕打ちをするなど……。
貴族という、平民の上に立つ者としてあり得ない。
怒りすら湧いてきて、ギュッと眉間にしわを寄せた。
そんなティアリーゼに、エリーがおずおずと口を開く。
「それであの……ティアリーゼ様はどうして私を助けに? 何よりメラニー様は貴女様を陛下達が戻ってくる前に処すると言っていました。何事もなかったのですか?」
ある程度の予測はしているだろうが疑問点も多いのだろう。
疑問解消のために聞かれた言葉に、ティアリーゼは出来る限り正直に答えた。
「そうね、冤罪を着せられた私はテシュール湖に沈められたわ。でもこの方が――ストラ様が助けてくれたのよ」
ストラに視線を向け、簡単に紹介する。
偽名を使った方がいいかとも思ったが、ストラ自身がどうせ神だとは気付かないだろうからいらないと言ったのだ。
人間に扮している以上神力を解放するつもりもないようなので、彼の言う通りエリー達には詳細を伝えないことにした。
「まあ、そうでしたか」
詳しく話さなくとも彼女達は詮索してこない。
神力を抑え平民の姿に扮していてもストラの洗練された美貌は隠せないため、おそらくどこかの貴族だとでも思っているのだろう。
そのままティアリーゼは自分が神官になったこと、元々神官の適性の方が強かったこともあり自分ならエリーの治療も出来るかもしれないとフロント商会を訪れた理由を伝えた。
「そして何より、冤罪を晴らすためにエリーさんの証言が必要なのです。お願いします、公爵家の庇護が必要であれば父に願い出ておきますから」
宰相でもある父はその大きな権力を使う場面は慎重に選ぶ。
だが娘の冤罪を晴らすためだ。
商会一つ擁護することくらい問題なくやってくれるだろう。
証言をしてもうために出来ることはやるつもりだと伝えると、フロント氏はゆっくり重く頷いた。
「ティアリーゼ様、あなたは娘の命の恩人だ。庇護まで願い出てくれるというのなら助力を躊躇うことなどありません」
「そうです。むしろムバイエ子爵家とは縁を切りたいところですから!」
真面目な表情のフロント氏の言葉に、エリーも力いっぱい同意してくれる。
「ありがとうございます」
エリーを助けたとはいえ、ムバイエ子爵家を敵に回すことになるのだ。
豪商とはいえ平民であるフロント氏には迷う要素もあるだろう。
それでも自分に協力してくれたことにティアリーゼは素直に感謝した。
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