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三日月が浮かぶ静かな夜。
パーティーが行われる会場は魔術で灯された明かりで眩いほどにきらめいていた。
フリッツとメラニーにとってはこのきらめき同様の未来が見えているのかもしれない。
だが、人に冤罪を被せまともに裁判もせずに刑を執行するような輩にそんな未来は欠片もないのだ。
「皆、聞いて欲しい。私の元婚約者、ティアリーゼ・ベルンハルトのことだ」
婚約者ではない令嬢を伴って参加したフリッツに、周囲は好奇の眼差しを向けていた。
その視線に気付いているのかいないのか、内包する嫌味をものともせずフリッツは声高に語る。
「王太子の婚約者……未来の国母ともなるべき立場であるあの女は、この度到底許されない程の過ちを犯した。嫉妬に狂い、このメラニーに毒を盛ったのだ!」
毒という穏やかではない単語に皆ザワリと騒がしくなる。
「ティアリーゼ様が? ありえないだろう」
「だが、もし本当なら……」
大半が信じられないという声。
だが、メラニーの支持者だろうか? いくつかフリッツの言葉を信じる声も聞こえてくる。
「メラニーが口にする前に毒見をした者がずっと目覚めぬ。以前からティアリーゼはメラニーに辛く当たっていたが、今回のことは到底許せることではない。よって、私は早急にあの女との婚約を破棄した!」
バンッ!
高らかに宣言した直後、会場が騒がしくなるより先に入り口である両開きの扉が大きく開け放たれた。
「失礼!」と怒鳴るような声を上げて現れたのは、白いものが混じった金髪を後ろに撫でつけた壮年の男性。
「っ⁉ お父様?」
会場の隅、警備の者が待機している場所からこっそり様子を伺っていたティアリーゼは、突然現れた父・ベルンハルト公爵の姿に本気で驚いた。
「ほう、思ったより早かったな」
だが、側にいるストラは驚きもなく淡々と話す。
ティアリーゼは水色の目を大きく開き、パチパチと瞬きしながら彼を見上げた。
「父が来ることを知っていたのですか?」
「ああ……というか、私が呼んだ」
「え⁉」
いつの間に⁉ と思ったが、どうやら自分から離れていた間に父に帰るよう伝えたらしい。
宰相である父が国王夫妻と向かっていたのは隣国だ。二週間では片道がやっとだろう。
どうやって伝えたのか方法は分からないが、ストラは神なので普通の方法ではないのだろうと納得させた。
「王太子殿下! 突然の御前失礼いたします。ですが、早急に確認致したいことがっ!」
フリッツの前に跪いた公爵は、息を整える時間すら惜しいと苦し気に言葉を紡いだ。
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